研究課題/領域番号 |
25380056
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
嶋 拓哉 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80377613)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際法学 / 国際私法 / 国際民事手続法 / 抵触法 / 複合取引 / 複合的不法行為 |
研究実績の概要 |
第一に,外国実質法に特有の取引形態を題材として,こうした取引に関する個別準拠法と相続準拠法との関係について検討を行った。具体的には,米国で遺産管理手続外で遺産代替物として機能しているジョイント・アカウントやジョイント・テナンシーを取り上げて,これら財産と相続との関係を,抵触法上の視点に基づき分析した。また,抵触法上の議論に付随して,これら財産の移転がわが国租税法上如何に取扱われているかについても調査研究を実施した。 第二に,競業者による営業侵害行為(複合的不法行為)を対象として,一般不法行為の準拠法と特別不法行為の準拠法との適用関係および優先関係についての検討を行った。これら営業侵害行為は競業他社の名誉を毀損する態様で実施されることが多いため,一般不法行為と併せて名誉毀損責任が問われることが多いが,名誉毀損の抵触規定である通則法19条の文言からすれば,これら行為を同条で捕捉するのは適切ではなく,あくまで営業権の簒奪行為として通則法17条により一般不法行為として捕捉すべきとの結論を得た。 第三に,証券化,資産流動化等に代表される,債権譲渡や動産譲渡担保を利用した金融取引(複合的金融取引)について抵触法上の分析を行った。動産譲渡担保や債権譲渡の準拠法は通則法13条,23条により決せられるが,これらの取引手法の利用促進という観点から譲渡人の所在地に連結すべきとの新たな見解が提唱されており,こうした見解について自身の考えを取り纏めた。 第四に,米国民事訴訟におけるディスカバリとわが国における外国判決執行時の公序審査との関係についても分析に着手した。国家間で手続の具体的な内容に相違がある以上,外国判決執行手続の段階で手続的公序との関係が問題になる。その典型事案として,本問題を取扱うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初計画では,幾つかの複合取引や複合的不法行為の類型について,国内外の裁判例および学説を調査し,準拠法をめぐる検討を実施することにしていた。実際の研究においては,主として,①ジョイント・アカウントおよびジョイント・テナンシー,②競業者による営業侵害行為(複合的不法行為),③債権譲渡や動産譲渡担保を利用した金融取引(複合的金融取引)について,これら抵触法上の論点について分析作業を行った。従って,概ね当初計画に沿った形で成果を挙げることが出来たと考えている。 また,これら研究の過程で付随して,国際民事手続法等その他の領域についても,併せて検討を行った。具体的には,①客観的併合による国際裁判管轄,②米国判決承認時における手続的公序審査などが挙げられる。本研究のテーマに直接的に結びつくものではないが,その関連事項について併せて議論を行うことで,本研究の枠組みに幅をもたらすことができたように思われる。 これらのことを総合的に考慮すると,本年度に関しては,概ね当初計画に沿って所期の研究目的を達成することができた,と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関しては,当初は平成27年度を最終の研究年度とする計画であったが,これについて1年間の期間延長を願い出て,平成28年3月22日付でその承認をいただいた。 これは,平成27年度に,本研究の代表者が「消費者取引に伴うリテール決済サービス法制の構築」(15H01927,代表者:千葉恵美子・大阪大学教授)の連携研究者になり,その研究において,複合取引の抵触法上の問題を取扱うことになったことから,本研究との間で相乗作用をもたらすことが期待されるためである。両研究の共通事項として,クレジットカード取引に代表される複合金融取引を巡る抵触規則のあり方が挙げられるが,かかる事項に関する欧州での議論状況等を取り纏めることにより,研究の拡充と内容の充実を通じて本研究の一層の発展を企図している。 なお,研究推進の方策としては,引続き国内での文献・資料収集とその読解を中心に研究活動に取り組む。また今後の研究事項には学術的・理論的に高度な論点を含まれること等から,自身の研究方針の妥当性を確保するために,国際私法に関する研究会や上記千葉先生の科研研究会の場等を通じて,他の抵触法研究者のみならず実質法研究者とも適宜意見・情報交換を行うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度より,本研究の代表者が「消費者取引に伴うリテール決済サービス法制の構築」(15H01927,代表者:千葉恵美子・大阪大学教授)の連携研究者となり,そこでは,クレジットカードを利用した複合取引の抵触法上の調査研究を予定している。こうした他の科研での成果を,本科研の調査研究に反映させることにより,本科研における事項の拡充および内容の充実を図り,新たな論文作成を展望することが,その理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな論文作成に必要な経費としての使用を予定する。具体的には,①研究会等での参加・報告のために必要な交通費,②論文作成の基礎となる文献購入費等が中心となる。
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