最終年度では,複合取引の準拠法決定のあり方に関して,ドイツの通説的理解と近時の有力説の概要を取り纏め,両者の対比を通じて,あるべき抵触準則を検討した。とくに,複合取引の典型として,第三者与信販売取引とファイナンス・リース取引を採り上げたが,通説的理解は飽くまで契約毎に準拠法を指定するのに対して,近時の有力説は複合取引の経済的一体性を根拠に,取引を構成する複数の契約を一括して同一の準拠法に委ねるという立場を採る。後者の見解は契約の結合という新しい取引類型に対応したものであり新規性に富むが,ローマⅠ規則の条文構成を踏まえると解釈論として採用し難いとの結論を得た。他方で,抗弁権の接続等複数の契約に跨がる問題についても準拠法を決定する必要があるが,この点に関しては,複合取引の特殊性,取引相手方の要保護性を踏まえて,複数の契約準拠法を選択的に適用する余地があるとの結論を得た。 本研究(平成25年度~28年度)の主要な課題は複合取引の準拠法決定のあり方を探求することにあったが,最終年度の研究成果により,こうした所期の研究目的および研究実施計画を概ね達成することができたと考えている。複合取引は実質法の領域で幾つかの先行研究があるものの,抵触法の領域では先行研究に乏しく研究遂行に困難を伴ったが,それだけに本研究が国内の研究蓄積に多少なりとも貢献できたのではないか,と考えている。 もっとも,まだ本研究を取り纏める最終的な論文については,原案を作成したものの,公表するためには細部の修正にいま少し時日を要する。第三者与信販売取引とファイナンス・リース取引では考慮すべき要素に差違があることから,平成29年度の出来る限り早い段階で両者につき別稿で研究成果を公表するように努めたいと考えている。
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