本研究においては、3年間の研究期間において、貨幣の法的な本質を解明することを目的として、国際私法学の観点から、貨幣に関する分析を行った。貨幣の法的な本質を解明するには至らなかったところであるが、その本質の解明に向けた研究の視点や方向性、必要な研究対象を明らかにすることができたと考えられる。 近時の貨幣の法的分析においては特に個人の視点が強調され、例えば、何が貨幣かといった基本的問題についても、個人が用いる際の機能に着目する考え方が一般的となっていると考えられる。その結果、伝統的な国家主権との関係性・貨幣とそれを生み出す社会集団との関係性を重視する考え方は後退し、外貨等についてもその特殊性が希薄となる。確かに、私人の契約取引の媒介となる貨幣の分析について、このような個人の視点を強調することは重要であるが、私人の契約取引自体国際社会全体の枠組みに包摂されるものであり、その脈絡の中で存在するものであることからすると、社会集団の視点を無視することはできず、双方の貨幣に関する視点からの分析を調和させる理論枠組みの構築が必要であることを明らかとした。 また、社会集団の視点からの貨幣の法的分析を行うに当たっては、貨幣の法的分析に当たっても、法学を超えた文化人類学・社会学・経済学・哲学等の観点からの分析との統合が必要であることを確認し、この方向性での研究を開始することができた。 なお、本研究における社会集団の視点と個人の視点の対立関係という思考枠組みとの関連で、国際私法学における当事者自治の原則に関する英語の論文を執筆した。
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