研究課題/領域番号 |
25380058
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
今井 直 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (70213212)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国連人権理事会 / 特別手続 / 市民社会的メカニズム / 個人通報 / 訪問調査 / 国連人権メカニズムの相互補完性 / 国際人権法の発展への寄与 |
研究実績の概要 |
2014年も、特別手続は全体として(国別14、テーマ別39)、60ヶ国80回の現地訪問調査、116ヶ国に対する計553件の通報送付、379の公式声明発表を行うなど、人権理事会創設以降も継続して市民社会的メカニズムとしての機能を遂行しているが、26年度は、いくつかの特定の特別手続(強制的失踪に関する作業部会、超法規的処刑に関する特別報告者、拷問等に関する特別報告者、恣意的拘禁に関する作業部会、移民の人権に関する特別報告者、人権擁護者に関する特別報告者など)に焦点をあて、個別的にその活動状況を分析し、その役割・機能と実効性を具体的に確認・検証し、より実証的な知見を得ることを目的とした。 その結果として、人権侵害における「最後の救済の砦」としての特別手続の存在意義を確認するとともに、利用する側(多くの場合被害者やその家族、NGO、法律家など市民)の目的に応じた機能が果たされていることを認識できた。具体的には、①個人等から通報された現在進行形の人権侵害ケースには、単独・共同でとりわけ当該国への緊急アピールなどの手法を用いて対応する、②通報に関して事後的な判断を国際人権法にもとづいて行ない、意見・所見を表明する(特に恣意的拘禁作業部会や拷問等特別報告者に関しては、手続・内容の上で一定程度準司法的な性格を有する)、③通報の蓄積と特別報告者等へのロビイングが訪問調査に連動することが多々あり、かかる現地での活動は、当該国への働きかけの上で特別手続の最も効果的な局面となっている、④特別手続における所見・勧告が、人権理事会の普遍的定期審査(UPR)や人権条約の報告審査で援用されることも多く、国連の人権メカニズム間の相互補完的あるいは相乗的な作用が見出される、⑤特別報告者等がその活動の文脈において国際人権法規範の解釈を行い、国際人権法の明確化と発展に寄与している、といった各種機能が指摘されよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人権理事会創設後も特別手続は諸人権の相互不可分性をふまえた形でむしろ質量ともに拡大しており、かつ全体として常態化・統合化されたメカニズムとしての方向性にあることを確認した上で(25年度)、26年度においては、筆者のいう「市民社会的メカニズム」としての性格づけの中身を、いくつかのテーマ別手続の個別具体的な分析を通じて明らかにすることができた。つまり、上記「研究実績の概要」で指摘したように、市民社会のニーズに合致した機能を特別手続の実際の活動に見出すことができた。そして、そうした機能を支えているのも、特別手続にアクセスするNGOや個人であった(とりわけ「人権擁護者」と呼ばれる各国の市民)。特別手続においては、市民は必要不可欠な行動アクターであり、こうした専門家と市民社会との間の密接な連携的関係が手続の発展を担保しているのである(しかし一方では作今、かかる人権擁護者に対する関係国による人権侵害や制限が重大な問題となっている状況がある)。アナン前事務総長は特別手続を「人権システムの至宝(the crown jewel of the system)」と称したが(2006年11月29日の理事会第3会期へのメッセージ)、その含意するところを、これまでの研究を通じて実証的な知見として確認できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでの研究をふまえて、特別手続を国際人権保障総体の中に正確に位置づけるという総括的な作業を試みる予定である。 筆者は、国連の人権保障メカニズムについて、憲章上のメカニズムと人権条約上のメカニズムを、「1つの統合されたプログラム」として認識し、総体として国際人権法の実現過程として把握すべきであるという立場をとる。 したがって、まず、憲章上のメカニズムとして、特別手続と、親機関である人権理事会との関係を整理する。特別手続の下での報告や勧告が、理事会決議、普遍的定期審査(UPR)、理事会との双方向対話などに、どう影響を及ぼし反映されているかを実証的に確認する。また、人権侵害事態への対処という点で特別手続と類似の機能を果たしている人権高等弁務官や、理事会決議で設置される独立調査委員会との相乗作用的関係にも注目する。次に、人権条約上のメカニズムとの相互補完的関係を具体的に確認する。特別手続の活動類型の特徴である現地訪問調査や緊急アピールは人権条約機関の実施措置では十分機能しておらず、その活動手法の比重の違いとともに、人権条約の報告制度における特別手続の影響なども視野に入れつつ、その関係のありようを見たい。こうした一連の作業により、特別手続が国際人権法の実現過程に対して果たしている現実的役割の意味が明らかになろう。 最後に、国際人権保障の歴史的展開における特別手続の意義についてあらためて考察する。国際人権保障は、政治(国益)と普遍的価値(人権)、国家と市民社会をめぐる相克の中で展開してきた。とくに、国連人権委員会・人権理事会という政治的機関の場ではその相克が顕著である。しかし、その力学的関係は少なからず変動する。かかる背景の下で、1960年代後半に端を発した特別手続は、紆余曲折を経ながら現在の形に至っている。その意味するところを筆者なりに総括したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が未使用だったため
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次年度使用額の使用計画 |
物品費200,000 旅費 418,601
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