研究概要 |
本研究においては、国際社会における公的利益、公的権力など、「公」の概念に着目する。そのために、第一段階として、国際社会における公的利益を扱う先行研究などを検討することによって、国際社会における「公」の概念の形成における背景、要件、基準、意義などについての予備的基礎的な分析・考察を行った。具体的には、資料の調査収集の結果として、S. Peter, Public Interest and Common Good in International Law (Helbing Lichtenhahn Verlag, 2012, Pp. xxv, 248) および A. Suy, La théorie des biens publics mondiaux (L’Harmattan, 2009, Pp. 175) などの最新の有益な文献を入手し、検討を進めた。 「公」の概念については、様々な主体間の利害対立を前提として、必ずしも一義的に決まるわけではないという側面が強く、しばしば権力者によりイデオロギー的に使用されることもある。そのような錯綜した危険な要素・側面にも十分に注意を払うことが必要である。この関連では、ルソーにおける、自らの利益を求める「特殊意思」の総和としての「全体意思」と区別された、公共的利益を志向する「一般意志」の概念が、従来、指摘されてきた。この「一般意志」の概念については、近年の研究では、ロールズの『正義論』における「無知のヴェール」が「公正な視点」を作り出すとの興味深い指摘がなされている(仲正昌樹「第一章 『公共性』と『主体』」仲正昌樹編『「法」における「主体」の問題』御茶の水書房、2013年)。このような研究と、近年のグローバル・ガバナンス、正当性、アカウンタビリティーなどをめぐる議論との接点を見いだすことが課題となろう。
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