本年度は、前年度の研究を踏まえて、【第3段階:総括】をおこなった。総括の作業に先立って、初年度の【第1段階:判例研究】および2年目の【第2段階:理論研究】から得られた知見に基づき、新たに非正規雇用の実態について研究した。そのうえで、総括として間接差別規制を再検討した。 非正規雇用の実態については、欧州およびイタリアの各種の統計、ならびに日本の各種統計、経済学による実証研究などを踏まえた研究をおこなった。研究にあたっては、海外調査を実施する予定であったが、家庭の事情等により本年度もそれを実施することができなかった。その代わりに、洋書を当初の予定よりも多く購入することで情報の収集につとめた。 研究の結果、非正規雇用は、特に近年において、欧州でも日本でも、様々な属性をもつ労働者から構成されているものであり、非正規雇用の問題を女性労働者の問題とひとくくりで論ずるのは難しいことが判明した。 以上から、差別禁止規制の問題と非正規雇用の問題の結節点として非正規雇用に対する間接性差別規制を論じることは難しく、EUにおける間接性差別法理を通じた非正規問題への規制は、当時はEUレベルで非正規雇用に関する直接的な規制がないことなどを背景とした一時的な現象とみることができる。とはいえ、確かに非正規問題全般に対して間接性差別規制を適用することには難はあるものの、女性労働者のかなりの割合が非正規雇用であること、非正規雇用の中で占める女性の割合がなおも高いことを勘案すれば、間接性差別規制を限定された範囲内では適用可能とみることもできる。そのような、規制の正当化事由について、より突っ込んだ考察が必要であり、現在その作業をすすめているところである。
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