研究課題/領域番号 |
25380085
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
伊藤 睦 三重大学, 人文学部, 教授 (70362332)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 科学的証拠 / 鑑定 / 専門家証人 / 伝聞法則 / 証拠開示 |
研究実績の概要 |
本研究は、米国におけるクライム・ラボ改革をめぐる議論を参考としながら、裁判員制度のもとでの科学的証拠の用い方に関して、事実認定の合理化・科学化に資するような鑑定書の作成プロセスの適正化、鑑定人の適格性についての手続的審査のあり方、公判での顕出方法と吟味の仕方、事後的検証の保障等について検討しなおすことを目的としている。 今年度は、昨年度までに収集した資料の検討と分析を進め、クライム・ラボの改革をめぐる議論のうち、改革の契機となった、専門家の不正に関する事例や、それをもとにした証拠開示等をめぐる立法動向等につき検討し、その研究成果の一部は弁護士との共同の研究会などでも報告した。テーマの本筋とは若干ずれるところもあるが、DNA証拠を開示しなかったことについての制裁をめぐる議論、同様の事態を防ぐためのオープンファイル政策の導入、検察官の違反に対して州がどのような責任をおうべきか等をめぐる議論は、現在の刑事司法動向について検討するうえでも大いに示唆を与えるところであるので、次年度も継続して調査・分析を進めつつ、論文としてまとめることとしたい。 また本研究では、実務家や専門家に幅広く聞き取り調査を行うことを計画しているが、今年度は、国内の弁護士等に対していくつかの事例について聞き取りをしたにとどまった。次年度は、計画にあるとおりの米国での調査を実施し、日米比較にとっての有意義なデータを得られるよう努力したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、研究の中間報告として、前年度からの研究成果につき研究会等で報告するとともに、大学紀要等で論文として公表する予定であったところ、研究会においては、データ等の資料の開示の仕方等に関する研究部分や、書面の用い方の部分について報告することができたものの、論文は、執筆は終えているにせよ、公刊されるのが次年度はじめとなってしまったため、客観的な評価としてはやや遅れている点があることを認めざるを得ないものとおもわれる。 また、今年度も前年度に引き続き、米国において現地調査・聞き取り調査を実施する予定でおり、実際に年度末に渡航の計画をたてていたものの、関係者の急な体調不良により実現が不可能になったことなどから、次年度に持ち越さざるを得なくなってしまった。その代わりとして、国内での聞き取り調査は実施し、鑑定の担い手が少数しかいない地域での特殊事情や、鑑定人の個人的資質による問題なども含めて、現在の裁判員制度のもとでの鑑定の取り扱いとその問題点、特に、公判前整理手続でのどのような点が争われ、それが公判でどのような争いへとつながっているか等の点で有意義な情報を得ることができた。その成果については最終年度のとりまとめの中で公表する予定であるが、年内に公表することができなかった点では反省するところが残る。
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今後の研究の推進方策 |
今年度実施できなかったものも含めて、日米のクライム・ラボや実務家への聞き取り調査を実施するとともに、米国において、クライム・ラボ改革の影響が通常の実務にどのような影響を及ぼしているか、実態を調査する。一部の法域では麻薬分析の専門家に対する詳細な尋問と情報開示の徹底等の点で改革の影響がみられる一方で、保管の連続性等について記録が作成されていない点や、証言の仕方等は改善されていないところもみられるようであるので、他の法域でも同様なのか、変化のあるなしについて、影響している要因は何か、などを分析・検討するために、各法域、各裁判管轄の専門家から情報を得るつもりである。 そして、上記の結果を踏まえたうえで、日本における刑事手続と、科学捜査・鑑定プロセスへの理論的・実務的な応用可能性を探求する。その検討にあたっては、本来の研究テーマであるところの証人審問権をめぐる議論とも照らし合わせ、鑑定資料の収集から結果の提出までのすべてのプロセスを憲法上の権利や証拠法上の議論との関係でも理論的に分析・整理する予定である。そして、それらにういて得られた結果をとりまとめ、論文として成果を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は今年度中に、国内での調査のみならず、米国での専門家、実務家に対する聞き取り調査を実施する予定であり、実際に年度末に日程を組んで計画をたてていたところ、関係者の急な体調不良等、突発的な事態が重なったことにより、実施することが困難となってしまった。 その分を、次年度に購入予定であった図書等を前倒しして購入する費用に充てることも考えたが、年度内に納品されるかどうかも確実ではなかったため、調査そのものを次年度に計画しなおす方が、研究費用の使用の仕方として適切だと考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
例年は年度末近くの渡航費用が比較的高額にならない時期に調査を実施していたが、次年度は研究計画の最終年度にあたることもあり、成果を年度内にとりまとめる必要性も視野に入れて、夏季休暇期間に、米国での聞き取り調査・実態調査と資料収集を実施することとし、そのための費用として使用する。
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