契約の拘束力の根拠を「後悔する権利」との関係で解明しようとする本研究プロジェクトにあっては、平成26年度に引き続き、民法典に散在する関連諸制度に対する考察を深めた。そして、特に贈与について、ドイツ法との比較を行うことで、贈与がされた背景事情が「後悔する権利」(贈与の場合は、贈与契約の効力、あるいは贈与の撤回可能性)との関係で一定の役割を演じていることを確認した。 また、ドイツ法においても、日本法にあっても、すでに贈与がされてしまった場合(=現実贈与)には「後悔する権利」は認められておらず、これは「後悔する権利」の時的限界とも、契約を履行すること自体が契約の拘束力の根拠となっているとも解釈することができる。 この問題は、いわゆる「自然債務」(請求力は認められないが、給付保持力は認められる債務)とも密接に絡んでいる。なぜなら、これも、契約を履行してしまうと「後悔する権利」が切断される事例、と解釈することができ、加えて「自然債務」概念の嚆矢となったカフェー丸玉事件は、ほかでもなく、贈与に関する事案であったからである。 このように、最終年度である平成27年度に至り、従前、ほとんど関連づけられてこなかった問題が1つの群をなすものとして、あらたに浮かびあがってきた。 なお、「自然債務」としては、消滅時効にかかった債務もその一例として挙げられる。後記の業績は、これに関わるものである。
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