研究課題/領域番号 |
25380094
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
富田 哲 福島大学, 行政政策学類, 教授 (40197926)
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研究分担者 |
清水 晶紀 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (20453615)
長谷川 珠子 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40614318)
塩谷 弘康 福島大学, 行政政策学類, 教授 (50250965)
山崎 暁彦 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (50451505)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 損害賠償請求 / ADR / 民事責任 / 原子力損害の賠償に関する法律 / 原子力損害賠償紛争審査会 / 原子力損害賠償紛争解決センター |
研究概要 |
2013年度の研究計画として、第1に、被害の実態の把握を掲げた。これについては、メンバーが分担して、被災者、被災地の自治体関係者、損害賠償請求における原告および原告弁護団等への聴き取り、および現地視察を行った。主な調査先として、福島県内では、相馬市(2013年8月)、浪江町(2013年10月)、いわき市・富岡町・双葉町・楢葉町(2013年11月)、県外では、宮城県亘理町(2014年1月)など。その他、原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)からの資料提供・聴き取りに努めた。また韓国における原子力政策および原発問題を調査するることを目的として2名を韓国のソウルに派遣し、大学関係者および政府関係者に対して聴き取りを行った(2014年3月)。 第2に、各種の研究会およびシンポジウムに参加し、資料収集・意見交換に努めた。とりわけ福島原発事故賠償問題研究会は、大学関係者のほか、各種の原告弁護団の弁護士が多数参加し、損害賠償請求における損害論・責任論につき認識を深めた。また2013年の秋に福島大学内に「原発ADRに関する研究会」を立ち上げ、2014年3月にはADRセンター・福島事務所の所長を迎えて、同センターの和解斡旋の実態について研究会を行った。これには大学関係者のほか、多数の弁護士・司法書士・行政書士・土地家屋調査士等の実務家の参加があった。 第3に、2012年度の福島大学プロジェクト研究推進事業「被災地の法的支援とADR の役割」については、この科研費での共同研究への吸収・発展という形になった。この継続事業として、司法書士、行政書士との交流、意見交換を通じて、被害の実態の把握に努めている。また4つの事故調査委員会の報告書(民間事故調・政府事故調・国会事故調・東電事故調)の問題点の洗い出しなど検討作業を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被災地の中心が福島県内ということもあるが、被害の実態の把握に関しては順調に進んでいる。すなわち、第1に、被災者、被災地自治体の関係者、原告、原告弁護団の弁護士等から、かなりの聴き取りを行った。さらに福島県(とりわけ浜通り)における弁護士過疎の実態を反映して、実質的に法律問題を取り扱かっている司法書士・行政書士からの事情聴取も進んでいる。それゆえ、法的な損害として構成できる実態(事実関係)の把握については順調であると評価できる。 第2に、各種の原告弁護団が多くが集まってくる研究会において、現実における訴訟上の問題点について理解が進んできた。すなわち、被害(損害)を法的な賠償のルールに乗せる理論作りの準備に取り掛かる段階である。またこれらを通じて、原子力損害賠償審査会が提示した「中間指針」(2011年8月)の理解も進んだ。この点からすると、順調に進んですると評価することができる。 第3に、ADRセンターにおける和解斡旋事例についての資料収集も進んでいる。とりわけ2014年3月の研究会を通じて、ADRの役割とその限界について明らかになってきた。そろそろ分析に進む段階といえよう。それゆえ、ADR関係についての資料収集も順調に進んでいると評価することができる。さらに実態の把握という点では、韓国における原子力発電の実態、原子力政策に関して調査ができたという点もまた大きなプラス点であるといえよう。なお、チェルノブイリの事故、スリーマイル島の事故などに関する報告書・文献に関しては、日本語訳があるものについてはかなり集まっている。 初年度(2013年度)は実態の把握および資料収集を課題の中心としていたので、この点に関しては順調に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度に関しては、実態の把握・資料収集が主たる課題であり、その目標はおおむね達成しているといえる。次の作業は、事実関係としての被害(損害)とそれに対する法的評価としての損害賠償・補償とをどのように結び付けていくかという点である。賠償の請求には、東京電力への直接請求、原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)への和解斡旋の申し立て、損害賠償請求の訴えの提起(訴訟)などがある。被害(損害)の実態に合わせて、どのようにして紛争を解決していくか、目的と手段の関係の適合性が特に問題となる。そのうえで、ADRセンターによる和解斡旋のメリット・デメリット、訴訟による解決のメリット・デメリットを明らかにしていくことが必要となる。とりわけこれらには弁護士等の法律家が関与しているので重要である。さらに、民法(過失責任)と原子力損害の賠償に関する法律(無過失責任)との関係、国家賠償法(国の責任)と民法・原賠法(東京電力の責任)との関係などの問題に進んでいきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度の調査等は福島県内が中心であり、しかも原子力損害賠償紛争解決センターなど関係諸団体から無償で資料提供を受けたこともあり残金を出した。またIAEAなど本来予定していた海外調査は多忙からできずに終わった。それゆえ、2014年度は、昨年できなかった資料収集、とりわけ外国文献の資料収集を充実させる必要がある。多少、当初の研究計画の遅れは見られるものの、資料収集等に関しては、昨年度の分もカバーして執行する予定でいる。また今年度からは学内においても、定例的な研究会の開催、外部講師への報告の依頼、シンポジウムの開催等を積極的に進めていきたい。 2014年度は、前年度の反省を踏まえて、とりわけ以下のことを企画している。第1に、チェルノブイリ事故から生じたヨーロッパ各地(とりわけ、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ドイツ、オーストリアなど)の被害の報告書等、外国文献の収集に努める。また同様にスリーマイル島の事故における事故調査報告書等アメリカ文献の収集も必要となってくる。第2に、2013年度における韓国調査を踏まえ、アジア諸国の原子力政策・原子力発電所問題も取り上げることにしたい。第3に、原子力損害賠償紛争審査会、原子力損害賠償支援センター等の諸組織から講師を招いて、研究会・シンポジウム等を積極的に開催する。
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