研究課題/領域番号 |
25380095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森田 修 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40202361)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 在庫担保 / UCCファイリング / プロシーズ / 延長された所有権留保 |
研究概要 |
平成25年度は、動産を回収対象財産とする債権回収について、ドイツ・フランス・イギリス・アメリカとの比較法を行った。アメリカについては、在庫担保取引を中心に、その設定・公示についての研究を進めた。特に倒産局面で、従来考えられていた以上に、裁判所が担保契約の解釈という手法によって、積極的に担保権者の権利を制限し、倒産財団を確保しようとしていることが明らかになった。このことは、翻ってドイツ・フランス法における在庫担保取引の実務に照らし合わせると、そこで展開している過剰担保規制の法理と、機能的に対応している。この知見を得たことは比較債権回収法上貴重な知見・視点ということができる。 また担保目的物の期中処分によって生じた代金債権にどのように担保権が波及するかという問題等について、アメリカではproceedsの法理がUCCファイリングという独特の公示制度によってどのように支えられているかを検討した。物権および第三者効力の概念構成の違いから単純な移植はできないとしても、この点でアメリカ法には日本の今後の在庫担保取引のあり方に向けた示唆に富んでいるという感触を得た。この問題は、ドイツにおいては、空間動産譲渡担保権および所有権留保の「延長」と呼ばれる法理によって対処されているが、物上代位制度および債権譲渡の第三者対抗制度についての日本との相違の大きさから、日本とドイツとは著しく異なった状況にあることが分かった。この問題も倒産時の否認のあり方などについて、重要な示唆を与えるものと思われる。 フランス・イギリスについては、在庫担保取引そのものが萌芽的段階にとどまっているために、基本的な制度のサーヴェ行うにとどまった。 在庫担保取引以外の債権回収に関しては、ドイツ・フランスにおける質制度の基本的な制度的前提についてのサーヴェイを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
在庫担保に関しては、アメリカについては、既述した担保設定・公示のみならず、「通常の営業の範囲内の譲渡」の概念等の期中管理および実行・倒産に関して生じる法律問題についてほぼ基本的な調査を終えた。いくつかの重要裁判例の分析も行い、比較法の座標軸は確立されたと言ってよい。他方、フランスに関しても、2006年改正によって立法的に出現した法制度についてはサーヴェイを終えた。ドイツについては、日本との比較法的な検討が大いに進んだ他、銀行の業界団体が編纂した契約書についての検討を行った。イギリスについては、フローティング・チャージの研究に力点を置き、その実像が従来語られてきたところとは異なり、必ずしもABLの方的受け皿と為しうるものではないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、引き続き25年度の作業の補完・補強として、25年度に取り扱った在庫担保および質権以外の動産担保権について、取りこぼしのないように比較法定検討を行う。そのようなものとしては、所有権留保・リースおよび動産先取特権がある。これらの各国法における機能的対応物についてサーヴェイを進める。 その上で、平成26年度は債権および不動産からの債権回収の法制度の比較法に歩を進める。債務者が有する金銭債権を回収対象資産とする債権回収について、英米独仏の比較法を行う。具体的には、日本法上の制度として、債権者代位権、詐害行為取消権、債権譲渡、相殺に機能的に対応する諸制度を取り上げ、各国の基本法制・主要裁判例をサーヴェイする。その際、できるだけ我が国の既存の比較法研究の現状についても、批判的に明らかにしていく。なお、強制執行としての債権執行も、これと併せて取り扱うことになるが、その際、強制執行一般の議論(例えば、優先主義・平等主義、消除主義・引受主義などの原理的論点)についても比較法的な目配りをすることとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度最終盤において、いくつか重要な資料が公刊されることが公表されたが、その単価が大きく、また出版時期の最終的確定が遅れたために、そのためにとっておいた予算が使い切れなかった。 26年度は既に何れも出版済みであるので、早急に発注して、使用したい。 25年度に於いて購入予定の資料は、現在では既に何れも出版済みであるので、早急に発注して、使用したい。
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