本研究課題の最終年度たる29年度の課題は第一にこれまでの研究を公表に向けて整理すること、第二に前年度までに取り扱う予定としながら、取りこぼしていた論点を拾うことであった。 第一の課題に関しては、本研究が①動産②不動産③金銭債権という債権回収対象資産に即した三つの柱をもち、また英米独仏という4ヶ国の比較法対象国とすることを踏まえ、これらの間で、検討の量及び質に関してバランスのとれた成果を公表できるように努力した。特にイギリスの不動産執行法制とドイツおよびアメリカにおける金銭債権からの債権回収とに、手薄な部分があったので、この点につき追加的な調査分析を行った。 第二の課題に関しては、比較法的検討によって得られた知見が、特に現在の日本の金融に関する取引・裁判実務との関係で持ちうる意義を明らかにするために、ここ数年の間に現れた倒産手続に関連する最高裁裁判例とそれを巡る学説実務界における議論を跡づけることに努めた。その結果、近年は相殺に関する事案の集積が著しく、それを取り扱う議論の枠組自体も、昭和末の議論の水準から大きく変わりつつあることが明らかとなったので、この観点からの比較法研究のupdateに意を用いた。 また、昨年度まで必ずしも意識してこなかった、金融機関の間の情報技術等に支援された高度に複雑化した取引形態の進歩そのものについて検討を進め、そのような取引環境の中で不可避的に生じる決済リスク・信用リスクに、民法・倒産法がどう対処すべきかという観点から研究を行った。その際、国際水準となっている契約書式を分析し、この点でも先端的な展開を示しているアメリカ法をその裁判例の具体的な展開も含めて跡づけた。その結果、倒産事件そのものの国際化によって、同一の倒産事案が各国に同時に訴訟係属した結果生じる、比較法上興味深い素材を収集・分析することができた。
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