本研究は、株主の地位をオプションと見ることができるというファイナンス理論の知見を生かして、そのようなオプション的地位を会社法上、どこまで保護すべきかを研究することを目的とする。研究の進展に伴い、研究代表者の主要な関心は、キャッシュ・アウト取引(それは、将来の会社利益に対する株主のオプション的権利を剥奪することに相当する)において、株主の利益をどの程度まで保護すべきかという点に集中することになった。研究期間を通じて最も力を入れたテーマであった、キャッシュ・アウトされた株主に対し与えられるべき「公正な価格」の決定方法については、昨年度に論文を公表して一応の成果を得たため、本年度は、平成26年会社法改正で創設されたキャッシュ・アウトのための新制度である特別支配株主の株式等売渡請求制度について研究を行い、その意義と解釈上の問題について論じた論文を公表した。また、公開買付けによって株式売渡請求に必要な90%以上の株式を取得できなかった買付者に対して追加的な株式発行を行うトップアップ・オプションの法律問題について検討を行い、適切に設計されたトップアップ・オプションは、適法であるとの結論を得た。さらに、一昨年度以来、わが国の公開買付けについての実証研究と、それをもとにした公開買付法制の解釈論または立法論的提言を行うことを目的とする共同研究会を主催した。特に、公開買付後にキャッシュ・アウトがどの程度行われ、それが公開買付けの成否にどういう影響を与えるかを研究した。その結果、公開買付け後にキャッシュ・アウトが行われる場合、プレミアムの大小とはあまり関係なく、ほとんどの株主は公開買付けに応募することがわかった。これは、キャッシュ・アウトの存在により、公開買付けが強圧性を持つ可能性を示唆するものといえる。当該共同研究の成果は、研究代表者を編者とする著書として2016年度中に出版される予定である。
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