平成28年度は、研究計画に沿って、憲法理論および行政法理論に関わる検討のほか、研究期間の最終年度であるため、研究全体をまとめるための考察を行った。 憲法理論との関係については、民事手続法的理論・実践との関わりでの裁判所の役割の限界が重要な意味を持つことが判明した。すなわち、本研究の具体的対象としている諫早湾干拓事業をめぐる一連の裁判の一つである長崎地方裁判所に係属している開門差止請求事件(平成23年(ワ)第275号、平成26年(ワ)第151号、平成27年(ワ)第181号、同第236号)において、長崎地裁から、「開門によることなく」解決を図るという方針を明らかにして和解協議が勧告された(平成28年1月18日)。一方当事者が強く開門を求めている中で示されたこの勧告は、訴訟手続として口頭弁論が終結したのちに提示されたものである。この勧告については、裁判所が得た心証と異なる内容の和解を勧告できないとの考慮が働いたものと分析できる。このような制約にも鑑みて、平成26年度に前倒しをして行った考察を超えた憲法理論からの分析は求められないと結論づけられた。 他方、行政法理論との関係では、民事執行法172条に基づく間接強制決定との関わりを検討した。諫早湾干拓事業をめぐる一連の裁判においては、確定判決に基づく間接強制決定について、その間接強制金の額の算定方法について問題となったほか、その確定判決について請求異議の訴えが認められたとき、間接強制金の返還を要するか否かが問題となっている。現在の民事手続法学において、間接強制金の性質として、制裁金説と損害賠償金説が対立しているところ、行政法理論としての比例原則を新たな視角として考察を加えることにより、従来よりもきめ細かな議論の整理を行い得ることが明らかとなった。
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