研究課題/領域番号 |
25380105
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中西 正 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10198145)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 倒産処理 / 事業再生 / 私的整理 / 民事再生 |
研究実績の概要 |
第1は、「債権者平等原則」は、倒産法において、無担保信用を促進し、倒産法を効果的に機能せしめるために創られた原則であることを、ドイツ法、アメリカ法の沿革を辿りながら、論証した。そして、近時注目されているスーパープライオリティー等の制度は、債務者の事業価値の最大化を前提とする制度であり、趣旨を異にする点を、指摘した。 第2に、事業価値最大化を倒産法の目的として位置づけるべきであり、これを前提として、民事再生法85条5項後段の少額債権の許可弁済などが正当化されることを、論じた。 第3に、私的整理において、金融機関の行う救済的な与信(無担保信用の供与)をどの様に保護するかも、本研究テーマとの関係で、重要である。この点につき、「中小企業の再生と弁護士の役割」(第13回・全国倒産処理弁護士ネットワーク全国大会)に、準備の時点からアドバイザーとして参加し、大会においては最後の総括の発言をし、また、このテーマに関連する論文も執筆した。 第4に、相殺期待をどのように保護するかも重要である。そこで、相殺期待をどのように保護するかにつき、強制執行、破産、民事再生等に共通の理論を構築すべく、論文を執筆した。 そして、第5に、今年2月10日から14日まで、Brooklyn Law School にて、本研究テーマにつきアメリカ合衆国の実務のヒアリングを行った。結果は衝撃的で、本研究の中核と位置づけていた、偏頗行為否認の例外であるOrdinary Course of Debtor’s business のルールは、余り機能していない。このようなルールを我が国に導入するのではなく、アメリカ合衆国のように、債務者が支払不能になる前に倒産手続は開始されるので、偏頗行為否認が問題となる事例は例外的であるという実務を確立することが、最も効果的な解決策であるという結論を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アメリカ合衆国の倒産処理実務においては、偏頗行為否認の例外であるOrdinary Course of Debtor’s business のルールは余り機能していない、債務者が支払不能になったようであれば、たとえ後から否認されないといわれても、取引債権者は現金取引に変えるか、履行を拒絶して倒産処理の帰趨を見守るものだということである。 そこで、研究の焦点を、以下の点に置くことにした。 ① 債務者が私的整理をしている間、金融機関、取引債権者が行った無担保信用の供与は、どのようなルールにより保護されるべきか。 ② 債務者が再生型私的整理の申請や、民事再生手続開始の申立てを、適時に行うようにするためには、どのような環境整備ないしインセンティブが必要か。 アメリカ合衆国連邦倒産法の比較法で概ね目的が達成できるとした当初の予測とは異なる展開となった。しかし、これまでの研究で、①、②、いずれの点についても、論文の見通しは立っており、今年度に概ね完成することができると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、以下の問題につき論文を執筆する。テーマを明確にして、執筆に着手したい(既に着手している)。
第1は、私的整理において、偏頗行為否認はどのような基準で適用されるのか。これまで、私的整理における「支払停止」の意義として議論されていた問題である。 第2は、私的整理において債権者に対する弁済原資を預かっていた金融機関が、私的整理が不調に終わり、債務者に対して法的手続が開始され、自らの貸金債権と、当該預金債務とを相殺した場合に、当該相殺は許されるのかという問題。 第3に、本研究テーマと関連して、民事再生手続における事業再構築を強化するための理論構築を、検討する。このような枠組みにおいてのみ、民事再生法85条5項後段の少額債権(少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すとき)の許可弁済などが正当化されるからである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究テーマについて、様々な費用を使ったが、例えばアメリカ合衆国への調査費用は他の科研費によるなどしたため、次年度費用額が生じた。 今年度は、東京への研究会出席、古くなったコンピュータ設備の更新などに、充てることにより、費用対効果の高い使い方をする。
|
次年度使用額の使用計画 |
東京出張(研究会)5回、コンピュータ設備の更新。
|