本研究は、以下のような問題意識でスタートした。再生型倒産処理の成功には、債務者の事業継続に不可欠な信用供与型取引が、倒産手続開始前後で維持されていることが、鍵となる。そこで、このような取引につき、倒産債権として損失負担させないようにし、このような取引が毀損されていない状況下で、債務者が倒産処理に入って来るよう規律することが、必要である。 しかし、近時、事業再生が必要な債務者で、(1)金融債務の支払いを一時猶予すれば(この間メイン・バンクは運転資金を融資する)、取引債権者には通常通り弁済できる債務者については、債務者と金融債権者の間で私的整理を行い、(2)取引債権の滞納分は支払えないが、今後の取引に係る分は支払える債務者については、民事再生を行い、事業継続に不可欠な取引上の滞納された債権については民事再生法85条5項の少額債権として全額弁済する実務が、確立しつつあることが、実態調査の結果、明らかとなった。 他方、当初本研究のモデルにしようと考えた、アメリカ合衆国連邦倒産法547条(c)(2)は、2度に渡るアメリカでのヒアリングの結果、倒産手続開始前の与信取引の保護としては十分に機能していない(取引相手が不履行を起こした場合、547条(c)(2)があるから取引を継続することはなく、取引を一旦中断して相手の様子を見るのが通常であるとのことである)と、判断した。ただし、547条(c)(2)は、別の理由から、法改正により、拡張されている。このことについても、確認した。 以上から、(a)(1)・(2)の実務に適合的な支払不能概念を検討しつつ、金融機関との私的整理の係属中運転資金融資の流れを確保するため、債務者が支払不能と判断されないための解釈を検討し、(b)事業継続に不可欠な滞納債権を民事再生法上保護する法律構成を検討し、(c)連邦倒産法547条(c)(2)が拡張された理由を分析した。
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