研究課題
基盤研究(C)
初年度は、計4回の研究会を開催しメンバーが交代で報告を行った。報告テーマは、後見に関連するもののなかからメンバーが自主的に設定し、二年目に向けて問題意識のすり合わせを行った。研究代表者山下は、イングランド法との比較を通じて、信託の設定にかかる法律関係について研究を行った。信託契約の締結によって委託者受託者間に生じる権利義務関係の内容を考察するものであり、信託契約の締結後、委託者に信託財産の引渡し義務が発生するかを考察した。信託は、任意後見制度と併用され、あるいは後見制度に代替する財産管理制度として機能することが期待されているため、信託契約の締結後に委託者がどのような法的義務を負うかを考察したものである。研究分担者久保野は、精神保健福祉法の平成25年改正について研究を行った。改正により、同法では保護者制度が廃止され、家族の負担を軽減することが目指されたが、医療保護入院の場面では家族等の同意が要件とされるなど、家族等になお一定の位置づけがなされており、さらに退院後の環境調整に関して専門家の関与が求められ、成年後見の活用が示唆されるなど、地域社会での受け入れ態勢整備が図られている。同法の検討は、精神障害者とその家族、地域社会の関係についての基礎的な研究であり、後見制度の研究の前提となる重要な成果といえる。研究分担者金子は、イングランド法との比較や、最高裁判例の分析から、相続財産の性質論に関する研究を行った。これにより、伝統的な財産概念を別の角度から理解する途を開くことが目的である。25年度は成果公表には至らなかったが、財産管理制度としての後見制度を検討するに当たって、重要な理論的基盤を提供するきわめて野心的な研究である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成25年度は、後見の沿革的・比較法的な研究を中心として研究を進めることを予定していたが、研究会での報告内容は、平成26年度に予定していた、後見と他の制度との比較分析作業に近いものが多くなった。これは、本研究の研究代表者、研究分担者の3名が、助成を受ける前から準備作業を兼ねた研究会を開催していたため、後見の比較法的研究の一部が先取り的に行われたこと(平成25年3月の研究会では、研究分担者金子はフランスの後見制度の報告を行った。)、そうした話し合いの中で、各人の専門領域に近い分野から後見制度分析の視座を得ることを優先した方がよいという共通了解に達したためである。このため、計画全体としては順調に進展しているといってよいが、当初の計画以上に進展しているとまではいえないと考える。
平成25年度に引き続き、研究会を開催して各自の問題意識を深めていく。なお、ここまでの研究で明らかになったこととして、現代の後見制度の役割を考察するには、信託、精神保健福祉法をはじめとする、他の法制度との比較分析作業を相当程度深く行う必要があるという点が挙げられる。このため、外部講師を招いた研究会を積極的に開催するなど、より幅広い知見を得られる機会を確保することで、問題意識を先鋭化することが必要と考えている。
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日本精神科病院協会雑誌
巻: 32巻12号 ページ: 1253-1256