本研究は、後見制度の理論的な解明を目指して、3人の分野の異なる民法研究者の協力により、研究会と成果の公表が随時行われてきた。最終年度にあたる平成27年度は、後見制度の体系的な位置づけ解明する理論構築の作業が目標であり、前2年間に精力的に行った研究会の知見を活かした成果の公表に重点を置いた。このため、平成27年度は研究会を開催していない。以下、公表された成果との関係で、研究実績を説明する。 (1)親族制度と後見: 研究分担者久保野は未成年後見を中心に親族法の中における後見の体系的な位置づけを研究し、「子ども法」を公表した。同書は共著であるが新しい視点から、親権や未成年後見を位置づけようとする野心的な体系書である。また、同分担者は、近時話題となった不法行為に関する最高裁の重要判例を契機として論文2本を公表し、その中で民法714条の法定監督義務者に該当する者を類型的に考察し、その中に後見人を体系的に位置づけている。また、研究代表者は、任意後見契約の利用される一場面である、同性パートナーシップ関係に関する論文を公表している。 (2)消費者取引と後見: 研究代表者は成年後見を中心に、消費者取引の中における後見の体系的な位置づけを研究し、研究論文2本を公表した。いずれも、脆弱な消費者(投資者を含む)の保護という観点から、高齢消費者の保護を扱うものである。後見制度が有する高齢者の財産保護機能と、他の制度による高齢消費者保護の関係を考察し、消費者取引の中における後見の位置づけを明らかにする意義がある。 (3)信託と後見: 研究分担者金子は、信託を中心にした研究のなかで後見の体系的位置づけを研究し、書評1本を公表した。対象の文献が信託の理論的問題に多角的に切り込むものであるため、その内容は批判的に分析する本書評は、財の管理制度全般の理論的解明に貢献するものといえる。
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