本研究の最終年度にあたる本年度は、昨年度来の研究対象である韓国法における「慣習上の法定地上権」に関する研究成果を発表した(「法定地上権制度の日韓法比較」円谷峻先生古稀祝賀論文集『民事責任の法理』(成文堂、2015年5月)509-533頁)。本稿で、日韓法で共通する土地建物別個法制がもたらす法現象の一端を考察し、両国法での類似性と固有性を示しつつ、韓国法上の議論からのアプローチによって、我が国の法解釈論・立法論上の示唆となりうることを明らかにした。本研究では、これまで、日韓法比較の視点から、法定担保物権としての留置権制度と法定地上権制度とを考察してきたが、いずれも権利の公示の不完全さが多くの問題を生じさせており、韓国では、そのような問題を解決するため、立法論上・解釈論上の改革提案が示されていることを明らかにしたが、本年度は、これらの考察をさらに補完するため、わが国の先取特権制度が抱える問題点と改正提案と、韓国における同様の機能を有する制度をめぐる状況との比較考察を行った。 韓国民法の特徴としては、日本法上の先取特権制度を継受せず、それに代替する制度として、ドイツ法等を参照し、法定質権・法定抵当権・抵当権設定請求という代替的な制度が設けられている点に注目した。また、民法外の特別法において、労働債権や不動産賃貸借保証金返還債権について、優先特権制度が設けられ、その法的性質などが論じられるほか、抵当権の被担保債権や租税・公課金債権よりも優先する最優先特権までが認められている。これらの特徴的な制度の考察は、わが国の先取特権制度が抱える問題点に関わる重要な示唆を与えてくれると期待して、制度の変遷について考察を加えた。本研究の期間中には、その考察について公表する機会を持てなかったが、本研究期間の終了後すみやかに論文として公表し、また国際取引法研究会・アジア法学会で研究報告することを予定している。
|