研究課題/領域番号 |
25380113
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
菅 富美枝 法政大学, 経済学部, 教授 (50386380)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 本人意思尊重義務 / 本人中心主義 / 事務管理論 / 自己決定支援 / vulnerable consumer / 消費者法 |
研究概要 |
初年度にあたる平成25年度は、本研究全体の大枠を確定する基礎的調査研究として、第一に、民法858条にいう「本人意思尊重義務」の解釈論的分析及び比較法的考察を行った。さらに、第二として、そうした本人中心主義に立った成年後見制度との統合的解釈を図るべく、事務管理論研究(特に、自ら意思決定を行い又は同意を与えることが困難な知的・精神的状態にある者に事実行為を提供するにあたって事務管理が成立するための要件として、民法697条2項における「本人の意思」への適合性をめぐる解釈論的分析及び比較法的考察)を行った。いずれのテーマについても、論文及び学会報告という形で公表を行った。 また、第三に、海外調査として、スコットランドとスウェーデンを訪問し、2007年国連障害者権利条約12条が押し進める「自己決定支援」に向けた法改革がどのように行われているかについて現地の弁護士、裁判官、研究者から聞き取り調査を行った。 さらに、第四として、次年度以降の研究につなげるべく、消費者法関連の国際学会にも積極的に参加した。具体的には、EU消費者法改革において常に議論されている「vulnerble consumer」の一類型として、知的、精神的障害を有する人々に着目し、彼らの契約能力に制約を加えない(市場から排除しない)手法によって保護や契約正義を実現する方策について、今後考察を深めていく端緒を得た。また、海外の研究者との意見交流により、今後、共同研究を進めていく素地が形成された。 以上の研究を通して、初年度にあたる平成25年度は、判断能力の不十分な成年者を、民法において法的主体として積極的に位置づけ直すという本研究全体を貫く構想の下、着実な一歩を進めることができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究全体のテーマに直結する内容の論文を予定より早く発表することができた。また、学会での発表も、国内、国外で計2回行うことができた。さらに、海外の研究者との意見交流の機会を多く持てたことにより、次年度、次々年度の研究遂行について、新しい観点や切り口に気づくことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、EUの消費者法改革において常に議論の対象とされている「影響を受けやすい (vulnerable)消費者」について、中でも、知的障害や精神障害、認知障害等によって判断能力や交渉力の点で弱い立場にある人々に関して、彼らの契約の自由を実質的に保障しうるような法制度のあり方について比較法的考察を行う。すなわち、制限行為能力制度に依らない、新たな消費者法制の模索である。 具体的には、第二年度にあたる平成26年度は、EU消費者法、英国の消費者法、オーストラリアの消費者法に関する文献を収集するとともに、比較法的観点をもった国際シンポジウムに積極的に参加することを通して、新たな解決の糸口を探して行きたいと考えている。 そして、得られた研究成果については、研究会報告、論文執筆、そして、国際学会における英語による口頭発表というように段階を経ながら、随時、社会と世界に発信していきたいと考えている。 その上で、最終年度にあたる平成27年度は、引き続き英国とEUの消費者法政策について調査を続けるが、主として研究基盤を欧州(英、独、伊)に置くことにより、さらに活発な比較法研究に力を入れたいと考えている。
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