本基盤研究の最終年度にあたる平成27年度は、英国オックスフォード大学を拠点として、「判断能力不十分者の主体性回復」という本研究課題について、主として契約法の観点から研究を遂行した。 具体的には、平成27年度前半は、英国判例法における「非良心的取引 (unconscionable bargaining)」取消の法理、及び、「過度な影響力の行使(不当威圧)(undue influence)」取消の法理に焦点を当てて、両法理の統合化と、現代的な機能拡大をめぐる議論を分析してきた。特に、2000年の英国最高裁判所によるEtridge判決以降、契約の有効性を保持するために、判断能力の不十分な人々を取引の相手方とする者に求められる「助言の確保」のあり方をめぐって議論が進んできたことから、関連判例の分析を丁寧に行った。これらの研究成果については、日本語での論文執筆と、国際学会における英語での報告発表という形で、国内外に発信した。 また、平成27年度後半は、同年10月1日より施行された「2015年消費者権利法」を基軸とする、イギリス消費者法の新体制(前年10月1日より施行された「不公正な取引行為からの消費者の保護に関する2008年規則」の改正を含む)の理論分析に焦点をあてた。特に、「平均的な消費者 (average consumer)」に比べて、認知上の障害を理由として「脆弱な立場にある消費者 (vulnerable consumer)」の観点に立った法規定のあり方(例「誤解を生じる取引行為」の定義や、「不透明な契約条項」の定義のあり方)に注目した。これらの研究成果については、合計3本の国内法雑誌への投稿という形で、日本国内に発信した。
|