研究課題/領域番号 |
25380115
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
白石 大 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90453985)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ABL / 在庫担保 / 売掛債権担保 / フランス法 / ケベック法 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,「アメリカ型の『初期融資者の優越』モデルとは異なる『刻む担保』モデルを前提としつつ,いかにして実効的な動産・債権担保制度を構築するか」という視角に基づき,比較対象であるフランス法・ケベック法が「刻む担保」モデルをいかに維持しているのか(維持していないのであれば,「刻む担保」モデルの放棄をいかに正当化したのか)を分析・検討した。 フランス法に関する主要な判明点は次のとおり。(ア)2006年の担保法改正により,質権設定の際には被担保債権・担保目的物を特定することが求められているが,実際にはどの程度の特定があればよいのか。被担保債権に関しては,ある時点においてどれが質権で担保される債権なのかを容易に判断することができる程度に特定されてさえいれば,完全に抽象的な記載も認められるとの見解がある一方で,これよりも慎重な見解もみられる。担保目的物に関しては,「現在または将来所有するすべての動産」という記載が認められるかについて議論があり,これが認められるとすると債務者の利益が保護されないとして否定的な評価を与える論者がいるほか,設定者や他の債権者の利益を保護するため,極度額の設定を義務づけたり過剰担保の縮減を認める規定を設けるべきであったと批判する論者もいる。(イ)フランスでは,担保目的物の価値を代替する債権への担保権の波及を広く担保権一般について許容する法規定は存在せず,物的代位についても「明文なければ代位なし」と厳格に解するのが伝統的な見解である。したがって,現行の実務では,売掛債権を担保として捕捉するためには在庫に対する動産質権の設定のみでは足りず,別途,債権譲渡や債権質権などの方法による債権への担保設定が必要とされる。 以上の研究成果をまとめた論文を執筆済みであり,これは平成27年夏頃に刊行される見込みである。なお,ケベック法については引き続き検討・分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,フランス法の法概念・法制度の検討に関しては,ほぼ当初の予定どおりに進展させることができたと考えている。公表に関しても,平成26年度の研究成果をまとめた論文をすでに執筆・脱稿しており,平成27年度中にはこれを刊行することができる見込みである。 他方,ケベック法に関しては,資料収集に予想以上に手間取ったため,計画よりも進捗が若干遅れている。また,研究代表者のスケジュールの都合等により,平成26年度に予定していたパリ・モントリオールでのインタビューは実施することができなかった。平成27年度中にはこれを実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は本課題の最終年度であり,以下のとおり本研究を推進していく予定である。 まず,フランス法に関しては,当初設定した3つの分析視角のうち2つに基づく研究はすでにほぼ予定どおり終えているため,平成27年度は残されたもう1つの視角,すなわち「倒産法制の基本設計との調和を意識しつつ,在庫・売掛債権に対する担保権の倒産手続における維持ないし変容をいかに規律するか(倒産法制の基本設計との調和)」という視角に基づく研究を行う。 また,ケベック法に関しては進捗がやや遅れているが,少なくとも3つのうち2つの分析視角,すなわち「大陸法概念による制度構築」・「『刻む担保』モデルの維持」についての検討を進めたうえで,その成果を公表する予定である。 なお,現地インタビューのスケジュールが遅れているため,平成27年度は2~3回の海外調査(パリ・モントリオール)を行う予定であり,9月にパリで調査を行うことはすでに確定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」欄に記載のとおり,研究代表者のスケジュール等の都合により,平成26年度に予定していたパリ・モントリオールでのインタビューを実施することができなかった。このため,旅費として予定していた金額(700,000円)とほぼ同額が未使用となったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,本課題において当初予定していた海外調査(パリ・モントリオール)を2~3回にわたって行うほか,ケベック法の資料収集をさらに行う予定にしており,これらに次年度使用額を充てることを計画している。
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