平成28年度は,まず,これまでのフランス法研究をふまえたうえで,売掛債権の担保において用いられる将来債権譲渡について,その法的構造を解明し,残された課題の明確化を目的とする論文を執筆・公表した。なお,フランスでは平成28年に債務法改正が実現しており,債権譲渡に関しては通知・承諾をせずとも当然に対抗可能となるとされた。本研究との関係では,これはアメリカ法の「警告ファイリング」の発想とも異なり,公示をまったく要求しないルールを採用することを意味しており,わが国においてABLの公示のありかたを考えるうえでも示唆を与えるものである。この問題については平成28年度中に若干の調査を行ったが、現地における議論の進展を見守りつつ,平成29年度中に研究成果を公表することを考えている。 次に,平成28年度は,もうひとつの比較法の対象であるケベック法についても調査を本格的に開始した。具体的には,11月にモントリオールに赴き,Mcgill大学のEmerich准教授へのインタビューを行ったほか,ケベック担保法・倒産法に関する文献・資料の収集を行った。その結果,本研究の計画段階で着目していたケベック法の「開かれた抵当権(hypotheque ouverte)」は実際にはほとんど利用されておらず,理論的な検討もあまり進んでいないことが明らかになった。むしろケベックの実務においては,在庫担保を実現するためにはほぼもっぱら「集合体(universalite)に対する抵当権」(ケベック民法典2665条1項)が用いられているとのことである。したがって,これに伴い,現地渡航前の調査・研究を軌道修正する必要が生じたため,現地で収集した文献・資料をもとに「集合体に対する抵当権」の分析を目下進めているところである。この成果は,これも研究期間終了後とはなるものの,平成29年度中には公表する予定にしている。
|