平成27年度における研究実績としては、これまで収集し、整理・分析してきた調査結果・資料等から、大別して、次の2つの内容を明らかにした点を、挙げることができる。 第1に、イギリスにおいて2013年の会社法改正により、会社法上の非財務情報の開示書類として導入された戦略報告書を、「統合報告」としての性質の濃厚な開示書類であると位置付け、そのことを会社法の諸規定、FRC(財務報告評議会)の「戦略報告書指針」から検証したことと、その上で、「統合報告」の制度化ないしは法制度化のために検討すべきポイントを整理、確認したことである。このようなポイントとして、イギリスについては、会社法におけるステイクホルダーの位置づけ、不実開示等に関する民事責任の扱い、開示情報の信頼性の保証ないしは確保、そして、具体的にどのような開示規定を整備するかがあると考えられる。この内容は、2015年10月23日開催の産経フォーラムで報告した。 第2に、上記のポイントの一つである、不実開示等に関する民事責任について、イギリス会社法に設けられたセーフハーバー規定の内容とその特徴を検討した。非財務情報の中でも、とりわけ問題となる将来情報(forward-looking information)については、アメリカの連邦証券諸法等にもセーフハーバー規定が設けられているが、アメリカのセーフハーバー規定等とイギリス法のそれとの異同を考察し、さらに、わが国の民事責任規定の解釈やセーフハーバー規定の導入可能性に関して、どのような示唆が得られるかを考えた。この検討の内容を中心に、第1の検討内容も加味して、論文にまとめる作業を進めた。
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