研究課題/領域番号 |
25380123
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
秋山 靖浩 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10298094)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 定期建物賃貸借 / 定期借家 / 空き家 |
研究実績の概要 |
本年度は、ドイツ法における定期賃貸借Zeitmieteに関する調査を行った。これは、昨年度の研究にて、日本法において定期建物賃貸借の「締結」および「終了」の局面に関して法制度上の問題が生じており、これが原因となって定期建物賃貸借が十分に活用されていないのではないかとの分析に達したことを踏まえて、日本法とドイツ法との比較をすることを目的としている。 以上の目的に基づき、①日本語文献およびドイツ語文献の調査により、特にZeitmieteの「締結」および「終了」の局面においてどのような法制度上の問題が生じているかを分析した上で、②Zeitmieteに関する注釈書を執筆しているインスブルック大学教授・ホイプライン教授に対してインタビューを行い、当該問題をめぐる議論の状況を確認し、当該問題に関する新たな情報等を収集した。その結果、主に次の点が明らかとなった。 第一に、ドイツ民法典575条1項はZeitmieteの成立要件を定めているところ、この要件を緩やかに解する見解は主張されていない。その背後には、Zeitmieteの導入により、空き家を賃貸に出すことへのインセンティブを賃貸人に与えることが意図されつつも、賃借人の保護が弱体化しないようにするとの強い配慮が同規定の主要な目的として堅持されていることがある。 第二に、Zeitmieteが結ばれると賃借人の通常解約告知権も排除されることになるかが激しく議論されている。仮にこの排除が認められると、賃借人は定めた期間は契約に拘束されることになり、賃借人の利益に重大な影響が及ぶ。また、ホイプライン教授とのインタビューから、オーストリア法はドイツ法と異なる解決を選択しているとの情報も得られた。 いずれの点も、ドイツ法およびオーストリア法との比較から、日本法の問題解決にとって有益な示唆が得られる可能性があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)日本語文献およびドイツ語文献の調査により、ドイツ法のZeitmieteの「締結」および「終了」の局面においてどのような法制度上の問題が生じているかを分析した上で、(2)この分野のドイツの研究者に対するインタビューを計画していた。 これらのうち、(1)については、関連するほぼ全ての日本語文献、および、主要なドイツ語文献の注釈書の調査を終え、Zeitmieteに関する制度の概要と主要な議論を把握することができた。もっとも、ドイツ語文献のうち、Zeitmieteに関する個別の論点についての専門書・論文等の分析には着手することができなかった。また、(2)については、ホイプライン教授へのインタビューを通じて、Zeitmieteに関する特に重要な論点について議論状況が確認できたと共に、新たな情報の入手にも成功した。なお、同教授には本研究に今後も協力していただけることとなった。 以上より、現在までの達成度を上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で明らかとなったZeimieteの「締結」および「終了」の局面に関する法制度上の問題点の分析を深化させると共に、日本法上の問題点と比較し、Zeitmieteに関する議論からの示唆を抽出する。併せて、ホイプライン教授とのインタビューにより判明したオーストリア法の状況についても、本研究と関連する範囲で調査する。 なお、本研究では当初、定期建物賃貸借の法制度上の問題点に関する関係業界・団体への聞き取り調査を予定していたが、本年度の調査の結果、各種の団体等が既に書面やウェブページ等で資料を公表しており、これらの資料から、関係業界・団体がどのような点を問題視しているかを把握しうることが判明した。むしろ、本年度の研究成果によれば、ドイツ法(およびオーストリア法)におけるZeitmieteをめぐる動向の方が、定期建物賃貸借に関する問題点を検討する上で有益であると見込まれるため、関係業界・団体への調査は文献等による調査にとどめ、今後の研究としては、ドイツ法(およびオーストリア法)のZeitmieteをめぐる議論に重点を置くことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
Zeitmieteに関するドイツ語文献の調査については、注釈書を中心として、データベースから無料で入手することができたため、その分だけ支出が少なくて済んだことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
Zeitmieteに関する専門書(データベースからは入手困難なもの)の購入、および、ホイプライン教授とのインタビューによって判明したオーストリア法に関する文献の購入に使用する予定である。また、ホイプライン教授へのインタビューのため、ドイツないしオーストリアに出張する旅費にも充当する。
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