当年度においては、前年度での比較法的検討を踏まえて、わが国における子会社少数株主保護のための施策として、子会社少数株主が子会社取締役に対して損害賠償請求を行うという局面を想定した解釈論を検討した。結論として、「あるべき基準」をいかに机上で策定しようとも、実際の紛争の局面においては、訴訟当事者(とりわけ少数株主)にとってわかりやすい指標である市場価格を基準として、それとの乖離が問題とされざるを得ないことから、そのような乖離を正当化することができるか否かに関する証明責任が決定的に重要であるとの結論に至った(業績欄記載の拙稿「親子会社と損害賠償」参照)。 また、これまでの研究期間においては、主としていわゆる企業結合の運営の局面を中心に子会社少数株主保護を検討してきたが、検討の対象を企業結合の形成時点にも広げた。とりわけ、近時子会社(となる会社)の少数株主の保護策として注目されているのが、支配従属関係(親子会社関係)が形成される際に、爾後の親会社による不当搾取の恐れがあると感じた少数株主に当該子会社から投資を引き上げる権利を認める、いわゆるセルアウト制度である。本年度は、これまでわが国において紹介・研究されることがなかったイタリアの一般会社法上のセルアウト制度(民法2497条の4)について紹介し、わが国における支配従属関係系政治の退出権制度の立法論(江頭憲治郎『結合企業法制の立法と解釈』参照)との比較検討を行った(業績欄記載の拙稿「従属会社少数株主の会社法上の退出権制度ーイタリア法ー」岸田雅雄先生古稀記念論文集『現代商事法の諸問題』参照)。
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