本研究では、研究計画調書に記した3つの軸の全般に関する最終成果物となる論文・図書のとりまとめと公刊が、当初予定よりも早く、昨年度に顕著に進んだことから、最終年度となる本年度は、国内外でのプレゼンテーションにも積極的に取り組んだ結果、本年度の成果として、主に以下の2つが挙げられる。 第1に、アメリカでの約10週間の在外研究やカナダでの講演等を通じて、関連分野の研究者・実務者等との討論・調査・レビュー等を効率的に行うことができた。なかでも、近年、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)等のスマートな情報技術の社会応用がグローバルな規模で進む中で、社会的な関心が高まっている「忘れられる権利」等の新たな権利概念について、具体的にいかなる価値・利益に仕えるべきものなのかを比較制度分析によって精査した上で、関連する個別課題をめぐる対抗利益間の調整における従来のバランスのとり方が果たして最善なのかという見直し―つまり、rebalancing―も検討しておく必要があること等を、明らかにした(後掲の研究発表欄の「“Right to be Forgotten” of What & “Users’ Rights” for Whom?」等を参照)。 第2に、検索事業者に対する検索結果削除請求に関する最高裁平成29年1月31日決定において示された判断基準の意義と今後の具体的な適用の場面での課題をめぐって、EU・アメリカにおける関連事例との比較考察を行い、新たな課題への対応のあり方において日本法にしばしば見出せる特徴の一つともいえる「折衷的(eclectic)」なスタンスが、本決定にも通底していること等を指摘した(後掲の研究発表欄の「インターネット上の表現をめぐる法的課題について」及び備考欄の「The University of British Columbiaウェブページ」等を参照)。
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