本研究の目的である「法曹の市場化と法曹の公共的役割」との関連性の検討という目的に即して、研究最終年度であることを踏まえながら、個別論点の検討ならびにこれらの統合の視点を探求する研究をおこなった。 第1に、当該テーマへのアプローチとして、二つの質の異なる領域に分けて検討するのが適切という結論に至った。一つは法曹制度論であり、もう一つは法曹の法的思考論である。この二つは、もちろん密接に関連しているが、前者がより法実務的な側面が強く法曹の市場化と直接的に関わり、後者がより理論的な側面が強く法曹の市場化とは直接的には関わっていないものの間接的に影響を受けるという相違があり、二つを分けて検討することで、法曹の市場化と公共的役割がより立体的に描き出せるという結論に至った。この二つについて、以下の論点について、クラシカルリベラリズムの視点に基づく、検討をおこなった。 第2に、法曹制度論においては、主として二つの論点を本年度は中心におこなった。まず、弁護士会という団体の自律性に関連して、イングランド、ドイツ、フランスでのインタビューや意見交換、資料収集により、弁護士会の自治の基礎付けに揺らぎがみられること、弁護士会への規制等の合理性と弁護士会の自治との調整との問題が生じ、それは各国の法曹制度や法曹文化に依拠することが確認された。次に、弁護士としての法曹倫理に関連して、弁護士の役割の法律系人材の中での特殊性が業務の独占性などの強い法曹倫理を要請すると同時に、市場の視点からは依頼者の要望との抵触の可能性があることについて、上記各国のABSの導入をめぐる議論を研究することで明らかになった。 第3に、法的思考論については、本年度は、法的三段論法の適用としての面のあてはめと包摂としてのあてはめの両方に関連する法的擬制についての研究を中心としておこなった。
|