研究課題/領域番号 |
25380141
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大塚 直 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90143346)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境リスク / 予防原則 / 環境損害 / 損害賠償 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、環境リスクを意識した環境法制度を構築することを目的とし、環境リスク規制に係る統一的視座を確立すること、及び環境損害賠償制度の構築を試みること、の2本柱で構成されている。 昨年度は2本柱のうちリスク規制に焦点をあてたが、本年度は、環境損害に対する民事責任の議論が活発であるフランスにおける議論に注目しつつ、2本柱の両方の研究を進めた。文献調査にとどまらず、フランスから大阪大学に招聘されていたマチルド・ブトネ教授をお招きし2日間のワークショップを開催した。1日目は、「フランス法における予防原則」をテーマとし、「フランス法における予防原則、比較法的見地からの民事責任におけるその影響について」を同教授からご報告いただいた後、日本法との比較の観点から研究代表者である大塚がコメントをし、ディスカッションを行った。2日目は、「フランス法における環境損害」をテーマとし、「比較法的見地からの、フランス民事責任法における生態学的損害」についてブトネ教授からご報告いただいた後、大阪大学の大久保規子教授からはドイツ法の観点から、研究代表者である大塚は日本法の観点から、コメントをし、最後にディスカッションを行った。両日とも、参加者からの質問も交えて活発な議論を行うことができた。 環境リスク規制に関する予防原則については、科学的不確実性の最大の問題は予防(差止め)にある点は日仏とも類似しているものの、フランスでは裁判所が予防原則を私人間に適用される規範と捉えているが、わが国ではそうではない点に違いがあることが明確となった。環境損害に関しては、日本における環境損害に対する団体訴訟の検討に向けて、どのような訴訟アプローチを用いるべきかについて示唆が得られた。 さらに、本年3月には環境リスク規制と損害賠償の問題の原点である水俣の関連施設を訪問し、予防原則と損害賠償についての検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の柱である「環境リスク規制に係る統一的視座の確立」については、昨年度イギリスから、本年度フランスから、研究者を招聘しシンポジウムを開催したことで、確実に示唆を得られている。また、個別分野として、国内から研究者を招聘し原子力規制の議論を行えた。着実に検討を進めていると考えられる。 一方で、第二の柱である「環境損害賠償制度の構築」については、今年度フランスから研究者を招聘し示唆を得ることで、検討に取り組み始めた。第一の柱の検討と比較するとまだ進展が不十分であるものの、第一の柱を土台とし環境リスク概念を把握しながら検討することが求められるため、第一の柱の検討が順調であることから問題はないと考えられる。 これらを総合的に勘案すると、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
予防原則については、予防原則に関する訴訟を中心に検討を進める。原子力発電所や化学物質など検討すべきケースは複数存在する。一方で、環境損害については、個別分野として原子力に注目し、CSC条約(原子力損害の補完的補償に関する条約)において原子力損害として定義される損害での環境損害の扱いについて検討する。これらの検討には、引き続き国内研究者との議論が有用であると考えている。 また、最終年度となることから、第一の柱である「環境リスク規制に係る統一的視座の確立」と第二の柱である「環境損害賠償制度の構築」について、独立して検討を進めるだけではなく、両者を関連させて改めて研究代表者・連携研究者・研究協力者が検討を加え、環境リスクを意識した環境法制度の構築としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外から研究者を招聘し国際シンポジウムを開催することを予定していたが、フランスから大阪大学に1ヶ月招聘されていたマチルド・ブトネ教授を招聘し、ワークショップを開催することができた。そのため、フランスから日本への旅費は不要となり、大阪から東京への国内旅費のみ支出することとなったため、今年度助成金に余裕ができ、次年度に繰り越しすることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
国内から研究者を招聘し議論を深めることを予定していたが、その回数を増やす又は人数を増やすことを予定している。
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