本研究は、環境リスクを意識した環境法制度を構築することを目的とし、環境リスク規制に係る統一的視座を確立すること、及び環境損害賠償制度の構築を試みること、の2本柱で構成されている。 本年度も2本柱の両方について文献調査にとどまらず、フランスからロラン・ネイレ教授とマチルド・ブトネ教授をお招きし、2日間のワークショップ「フランス法における環境損害と予防原則」を開催した。1日目は「環境損害」をテーマとし、「環境損害―フランス法の最近の状況と原子力損害の問題」をネイレ教授からご報告いただいた後、ブトネ教授と研究代表者である大塚がコメントをし、ディスカッションを行った。2日目は「予防原則」をテーマとし、「民事責任及び差止に対する予防原則の影響」をネイレ教授からご報告いただいた後、ブトネ教授と大塚がコメントをし、ディスカッションを行った。両日とも、参加者からの質問も交えて活発な議論を行うことができ、フランスにおける議論から日本への示唆を得ることができた。 本研究は、毎年度国際シンポジウムを行い、国際研究者交流に重点を置いた点に意義がある。フランス法との比較を通しては、環境リスク規制に関する予防原則について、科学的不確実性の最大の問題は予防(差止め)にある点は日仏とも類似しているものの、フランスでは裁判所が予防原則を私人間に適用される規範と捉えているが、わが国ではそうではない点に違いがあることが明確となった。環境損害について、団体訴訟の検討、CSC条約(原子力損害の補完的補償に関する条約)における環境損害の扱いの検討を行えた。また、従来日本であまり紹介されていないイギリスにおける予防原則の議論にも触れることができ、日本法への新たな示唆が得られた。国際研究者交流以外でも、環境リスク規制のうち特に原子力発電の規制の在り方や民事差止訴訟の在り方に関する議論を深められた。
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