研究課題/領域番号 |
25380144
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
犬塚 元 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30313224)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 王党主義 / 君主主義 / 文明社会論 / ブリテン史 / 啓蒙 / クラレンドン伯ハイド / ヒューム |
研究実績の概要 |
1 本年度は,第一に,前年度から引き続いて,17世紀復古王政期イングランドの王党派E.ハイド,P.ワーウック,R.シェリンガムの政治思想について調査・分析を行い,その成果の一端を単著論文「「文明化された君主政」論の王党派的起源」(『徳・商業・文明社会』所収)として公刊した。ステュアート王政の統治を正当化する復古王党派の政治思想には,「絶対的だが制限された君主政」をめぐる両義的な言説が広く観察されること,そうした言説のなかには文明論(文明発展論)によって君主政の進歩・発展を指摘する議論が存在しており,18世紀の文明社会論にも継承されたこと等を解明した。とくに後者は,国内外に先行業績を見ない独自の発見である。
2 第二に,18世紀啓蒙の文明論・文明社会論の再検討作業のなかで,「歴史叙述の政治思想:啓蒙の文明化のナラティヴ」(『岩波講座政治哲学2』所収)を公刊した。ここでは,18世紀の文明論が,(君主主義政治思想と同じように)宗教対立の克服という初期近代ヨーロッパの理論的課題に対する応答として位置づけられることを示した。この系譜の成果には,共著論文「ヒューム研究の現在」も位置づけられる。
3 王党主義・君主主義の再検討に従事する本研究課題は,ひろく政治思想史研究のリヴィジョニズムと関連・連動している。編著『岩波講座政治哲学2』の序文,『西洋政治思想資料集』所収のバーク論,論文'An Alternative Idea of Nationalism in Postwar Japan'(Patriotism in East Asia所収)のほか,「政治理論研究の現在──「規範を論じるエッセイ」からの脱却」(『風のたより』56号)は,そうした側面における成果の一端である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
17世紀の王党派政治思想の分析をふまえて,研究第2年度である本年度において,本研究課題に直結する研究論文「「文明化された君主政」論の王党派的起源──フィリップ・ウォリック,エドワード・ハイドと,デイヴィッド・ヒューム」を公刊して,本研究課題のリサーチ・クエスチョンに対する第一の解答を示したことは,本研究課題の順調な遂行を意味している。
これは,18世紀啓蒙の文明論について,(1)その形成を18世紀における社会経済的発展から説明する従来の通説に対して,17世紀の国制論・政治論という知的・思想的起源の存在を史料的に解明したこと,(2)その思想的位置づけをめぐってモダニティという意味づけを付与する通説に対して,むしろ(これまでは乱暴に)プレモダンと評価されてきた君主主義・王党主義の思想系譜の延長線上に位置づけられることを解明したことにおいて,独自の貢献をなすものである。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度以降の3カ年間は,本研究課題においては後期に該当する。後期は,王党派の君主政論の18世紀における受容を,ヒューム以外の思想家に拡張して分析する応用のフェイズであって,ヒュームの事例をひとつの比較基準としたうえで,文明社会論の思想的起源をめぐるさまざまなヴァージョンを析出することが分析作業の中心となる。2015年度においては,まず第一に,次段階の研究プロセスに移行するための予備的作業として,近年における18世紀研究・啓蒙研究の急速な転回をめぐる研究史的整理を発表し,そのうえで,エドマンド・バークの政治思想(とくにその歴史叙述)に注目して分析成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額は,2015年度請求額とあわせて,2015年度の研究遂行に使用する予定である。
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