研究課題/領域番号 |
25380152
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
姜 東局 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80402387)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際秩序認識 / 朝鮮半島の儒学者 / 3.1万歳運動 |
研究実績の概要 |
平成26年度には、主に1919年を前後の朝鮮半島における国際秩序認識を明らかにする作業を行った。具体的には、以下のような研究を実施した。 第一に、朝鮮半島の国際秩序認識を大きく変える事件である3.1万歳運動へ向けての、また、運動の失敗のあとの儒学者の国際秩序認識の展開に対する資料を収集した。国立中央図書館を中心に、3.1万歳運動関係の資料集や裁判記録などの公式な記録はもちろん、主要な人物の個人文集についても、資料調査を行った。また、研究の対象になる人物の活動時期が3.1万歳運動前後に限定されないことが多くあった結果、平成27年度に研究する計画になっている1920年代以降にかかわる相当な資料も自然に収集できた。 第二に、以上の資料調査に基づいた研究において、①3.1万歳運動の国際秩序観に大きな影響を与えた民族自決主義などの思想は、日本経由、中国経由、直接輸入などの多様な経路をたどったけった結果、内容において相当な多様性も持ちながら、朝鮮半島の儒学者に伝わってきたこと、②理想主義の国際秩序観は、一部の儒学者―例えば、慶尚道の安東地域における青年層―には、国際政治おいて普遍的な道徳を唱えている点において、儒教の教えの延長上で受け入れられたこと、③すでに、3.1万歳運等の直後から、その失敗を繰り返さないために、認識の基礎から問い直すという朱子学の思考方法を、西洋近代政治思想に適用することで、特定の政治思想―とりわけマルクス主義―へ接近する動き―例えば、安東の両班家の出身でありながら第2次朝鮮共産党の共青責任秘書になる権五ソルの場合―が存在したことなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、東アジアと西洋近代の政治思想の共通基盤を探る作業の一部として、3.1万歳運動をめぐる朝鮮半島の儒学者の国際秩序観における儒学と理想主義などの西洋の思想の共鳴を探るものである。平成26年までの研究を通じて、相当な資料の上で、共鳴の事実が明確になってきただけではなく、仮説的ではあるが、その共鳴の思想的構造―すわわち、国際関係における道徳という思想内容と究極的な原理を求めるという思考様式―が、見えてきた。このような進展によって、最後年度における研究の目的の達成が期待できる段階に到達していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の前半では、1919年の3.1運動の失敗が、1920年代における朝鮮半島の儒教的な国際秩序観の変容に与えた影響を明確にする作業を行う。具体的には儒学の影響は終焉したのか、それとも、何からの形で影響を与え続けたのかを、社会主義の国際秩序観の隆盛との関連性を中心に考察する作業を行う。 この年度の後半では、「1910年代の儒学的国際秩序観の変容」、「3.1万歳運動と儒学的国際秩序観」、「3.1万歳運動の失敗と儒学的国際秩序観の命運」という三つのテーマに関して、各々論文を書いて、公表する作業を行う。
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