研究課題/領域番号 |
25380161
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
和田 淳一郎 横浜市立大学, その他の研究科, 教授 (30244502)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 定数配分法 / ダイバージェンス |
研究概要 |
Wada(2010)Journal of Theoretical Politicsや、和田(2010)『選挙研究』は、ナッシュ社会的厚生関数に基づいた形で分離可能な不平等指数を作成し、一票の不平等問題を、各州(県)への定数配分問題と、その後の区割り問題に統一的な理論の下で区分することに成功した。この指数は、2013年度出版の日本応用数理学会監修『応用数理ハンドブック』(朝倉書店)にも所収され、さらにWada(2012)Mathematical Social Sciencesでは、ナッシュ社会的厚生関数を包含するアトキンソン社会的厚生関数に基づき、1+ドント, アメリカ下院、サン=ラグ、ドント方式を含む除数方式による議員配分法が導き出された。しかし、アトキンソン社会的厚生関数は、ロールズ,ナッシュ、ベンサムなどと名付けられた社会的厚生関数を含み、経済学者が最もよく使うものではあるが、相対的危険回避度一定の効用関数に依拠する。この効用関数も、経済学者が最もよく使うものではあるが、さらなる一般化は望まれるところである。 2013年度は、人口割合と定数割合のダイバージェンスの最小化から定数配分法を導くことを試みた。距離の最小化からは最大剰余方式が導かれることが知られているが、この方式が様々なパラドクスを引き起こすこともまた同時に知られているわけで、適切なダイバージェンスを使い、整数値配分を試みた。成果は、Public Choice Society他で公表され、現在、海外査読誌への投稿を目指しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的研究は、その成功に保証がないことから、まずは実証的分析の準備を初年度の当初計画の中心においていたが、数学の専門家のご助力をいただいたこともあり、定数配分に関するOR的手法を使った理論的研究に成果を見たため、理論的な定数配分問題を優先的に研究を進めた。成果はPublic Choice Societyなどでの報告を経て、海外査読誌投稿段階に至っている。当初提出された研究計画・方法(概要)の中核部分である「具体的な“解”をORの力を借りて求め」のところに、まずは大きな進展があったと考えている。 Wada(2012)Mathematical Social Sciencesが特定のタイプの効用関数に依拠したのに対し、2013年度の研究は、定数配分方式における様々な手法を、パラメタライズされたかなり普遍的なダイバージェンスを目的関数にすることにより導出し、さらには十分に認められる制約の下でそのうちの一つが選択されるようにされた。具体的には、1+ドント方式、アメリカ下院方式、サン=ラグ方式、ドント方式などの、ストラスキー平均を閾値にする一連の除数方式による配分方法がパラメタライズされたかなり普遍的なダイバージェンスを目的関数にすることから導出され、自然な形で要求水準を上げると、対数平均を閾値にする除数方式が導かれる。これはWada(2010)、Wada(2012)で使われたナッシュ社会的厚生関数に基づくものと同じものである。つまり、最低一議席の保証も折り込まれているので、衆院の一票の不平等以上に根深い問題を抱える参院の一票の不平等問題の限界点を示すと同時に、アメリカ州議会、ヨーロッパ議会など、連邦制によってより困難な問題を抱える欧米諸国にも理論的に貢献できるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Public Choice Societyでの報告内容には自信を持っているが、必ずしも全ての聴衆の説得に成功してはいない。実際、時間の限られた母語以外による発表であったこともあり、かなり高名なアメリカ人討論者の説得には必ずしも成功しておらず、終了後に、フロアの一般聴衆(お名前を存じ上げない)から、おまえの言っていることの方が正しいはずだなどと言いに来られたぐらいである。 3次元空間に住む人間が慣れ親しんだ距離の概念が様々なパラドクスを引きを超す最大剰余方式をもたらすのに対し、ダイバージェンスを使った最適化は、様々なパラドクスを起こさず、現実社会でも使われているアメリカ下院、サン=ラグ、ドントなどの除数方式を導き出すのにも関わらず、違和感をもたれるわけだが、川野辺・中村(2013)『公共選択』に寄稿した論文で行ったようなシミュレーションにとどまらない、図解などの工夫を準備する必要があるかと思われ、数理的基礎をさらに極めるとともに、定数配分法の理論面での今年度の課題としたい。 このような理論的研究は、その成功に保証がないことから、実証的分析の準備をまずは初年度の課題とし、そのために多めの研究費を初年度にお願いしたが、既に記したように、定数配分に関するOR的手法を使った理論的研究に成果を見たために、そちらを優先的に進めた。そのため、実証的分析の準備が遅れ気味ではあるが、研究費がきちんと繰り越せているので、あまり心配はしていない。今年度は区割り面での実証的分析の準備も合わせて進めていきたい。 なお、ナッシュ社会的厚生関数に依拠したWada(2010)の不平等指数に始まるこの一連の研究において使用してきた目的関数は、全て定数配分問題と区割り問題の間の分離可能性を保証しており、研究推進の方針としても両問題の併行推進には問題は無い。。
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次年度の研究費の使用計画 |
理論的研究は、その成功に保証がないことから、実証的分析の準備をまずは初年度の課題とし、そのために多めの研究費を初年度にお願いしたが、既に記したように、定数配分に関するOR的手法を使った理論的研究に成果を見たために、そちらを優先的に進めた。 理論的研究が順調に先行したために、かえって実証的分析の準備が遅れ気味ではあるが、研究費がきちんと繰り越せているので、あまり心配はしていない。今年度は区割り面での実証的分析の準備も合わせて進めていきたい。
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