本研究は、韓国の憲法裁判所について、司法制度論や比較執政制度論の研究成果を活用し、多国間比較と時系列比較の中に位置づけることで、民主政治における非選出部門の役割を解明することを目的にしている。最終年度である今年度は、これまでの研究実績に基づいて、成果を公表しつつ、体系化や一般社会への還元に向けた取り組みを強化した。 成果は次のとおりである。第1に、日本比較政治学会や日本政治学会という政治学関連の学会で複数回発表を行うことで、本研究が志向してきた理論と実証のフィードバックやシナジー発揮のあり方を示し、今後の体系化に向けてレレバンシーを担保した。 第2に、憲法裁判所は内政だけでなく対日政策など外交においても、ときに拒否点プレーヤーとして機能することで、政策決定過程を左右しているが、竹島領有権紛争と慰安婦問題では帰結が異なることを明らかにした。具体的には、1998年に締結された新日韓漁業協定に関して「独島」(日本名・竹島)に対する主権放棄であるという憲法訴訟が提起されたが、憲法裁判所は2001年3月21日に「合憲」と決定した反面、慰安婦問題においては執政が日韓請求権協定の規定どおり作為していないとして2011年8月30日に「違憲」という判断を下した。 第3に、憲法典だけでなく選挙制度など基幹的政治制度、すなわち「憲法体制」の変化において、憲法典にも憲法裁判所法という法律にも規定されていない「変形決定」という憲法裁判制度が重要な役割を果たしていることを明らかにした。特に、1票の格差是正など選出機関の利害がかかった公職選挙法の違憲審査において、その傾向が顕著である。その結果、「憲法の予定している司法権と立法権との関係」を解明するためには、議会と司法との間の立法ゲームに有権者を組み入れる必要があることが明らかになった。この点については、新たな研究課題として次年度以降に取り組む所存である。
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