研究課題/領域番号 |
25380171
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
大中 一彌 法政大学, 国際文化学部, 教授 (60434180)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 移民 / フランス / トランスナショナル / 地中海 / アイデンティティ / 政治 / 差別 / 民衆 |
研究実績の概要 |
2015年に同時多発テロに襲われたフランスは、緊急事態令を11月に施行し現時点まで継続している。テロをめぐる言説は地中海両岸の関係をめぐる知識人の言説にも大きな影響を及ぼした。2016年夏のブルキニ騒動に見られたような、多数派・少数派双方のアイデンティティ・ポリティクスの尖鋭化は、ナショナルな社会を単位としてしばしば語られてきた統合の概念について、それが可能であるための基本的な条件とはいかなるものであるのか問い直す気運をもたらしている。2016年度の実績では、そうした条件を探るべく、あえてミクロの水準に焦点をあてた。ここでいうミクロの水準とは、例えば、個別の企業の水準がそれである。フランスの大都市郊外に展開しているあるスーパーマーケット・チェーンが、地元の若者を雇用するに際し、機会の均等を保証するために行っている取り組みについて検討した。この取り組みでは、民族的・宗教的出自による就職差別を行っていないか、企業が自社の人事部門を定期的にチェックする仕組みが作られている。また、異なる事例としては、民衆階級に属する歴史的個人の水準がある。これに関連し、2017年1月には、本務校や外部団体、個人の協力を得て、フランス初の黒人芸人を取り上げた映画の上映および討論を実施した。現在よりもはるかに激しい人種差別が存在していた20世紀初頭において、芸人としての成功を目指した主人公のありようは、肌の色による差別の不当さを感じさせるとともに、民衆階級における個人の実存(記録の不足により分らないことも多い)を前にした、「アイデンティティ」概念のあいまいさや揺らぎを感じさせるものでもある。この映画は、本研究課題の主要な検討対象である、移民史研究者のジェラール・ノワリエルの原案による作品である。原案となった著作(伝記)について、移民史を語る言説のありようとして検討を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27(2015)年以降、イスラームとフランス共和主義の相克、およびポスト植民地状況(「人種」概念などをめぐる)は大きく揺れ動いている。このことは、海外での研究遂行上の安全確保の問題を引き起こすだけでなく、思想的政治的な水準で、従来の解釈枠組への疑問を多くの人びとが胸に抱き、またそうした疑問が実際に口にされる状況をもたらしている。こうした傾向は、本研究課題の遂行にあたっても、より慎重な取り組みを求めるものである。
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今後の研究の推進方策 |
地中海両岸関係を視野に入れつつ、フランス社会の変動に焦点を当てる形で業績を出してゆきたい。 ミシェル・ウィノックの著作等を参照しつつ、2017年大統領選挙以降の社会変動をめぐる研究を進めていく。
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