本研究は、2013年度(平成25年度)よりの5年計画であり、2017年度(平成29年度)は最終年度であった。本年度の目標は、第1に文献収集と、第2に論文執筆であり、これらを基礎にして、今後の研究書の出版の基礎をつくることであった。 第1の文献収集においては、戦争の正当性論などの理論的な面の文献収集が遅れていたので、本年度は、戦争についての哲学的な文献収集を引き続き行った。第2の論文執筆については、昨年度まで、フォークランド戦争の開始問題などについて執筆してきたので、本年度は、昨年度収集した資料を基にして、戦争中における労働組合の活動について書いた。イギリスでは、兵士であれ労働組合に加入することができる。しかも戦争中も活動できるので、フォークランド戦争中の組合活動はどのようなものであったかについて論述した。これは、これまで、まったく論じられていない問題であり、今後の学会への貢献は大きいと思われる。 フォークランド戦争は、イギリスのナショナリズムの発揚でもあった。しかしイギリスでは、もともと帝国主義が強くナショナリズムは弱かった。そこでサッチャーの時代から現代にかけて、どのようにしてナショナリズムが強くなるのか、この点も本年度の重要な研究課題であった。しかも、この点は、現在のEU離脱に直接的な影響を与えている。さらにフォークランド戦争を強行したサッチャーがイングランド・ナショナリストであったことが、その反作用としてのスコットランド・ナショナリズムを過激化させることにもなった。これらの点について図書・倉持孝司編著『スコットランド問題』(法律文化社)において、申請者は「スコットランド・ナショナリズム」について執筆した。なお本書の出版は、イギリスの研究者であるマッケルダウニー教授やヒムズワース教授との、これまでの共同研究を基礎としている。
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