本研究の成果の一部として、遠藤貢(編著)『武力紛争を越える』(京都大学学術出版会、2016年)および、遠藤貢『崩壊国家と国際安全保障:ソマリアにみる新たな国家像の誕生』(単著)(有斐閣、2015年)を刊行し、研究成果の社会への還元につなげた。 こうした研究成果においては、「崩壊国家」(collapsed state)という概念を検討する際に、国際政治学での枠組みでのS・クラズナーの主権に関する議論を援用し、「政府」を「国内的主権」(domestic sovereignty)にかかわる組織とし、一部「外」との交流を念頭に置きつつも主に「内」にかかわる統治に焦点を当てた組織の側面と考え、「国家」を国際承認に関わる「国際法的主権」(international sovereignty)と内政不干渉に関わる「ウェストファリア的/ヴァッテル的主権」(Westphalian/ Vattelian sovereignty)、言い換えると「外」との関係をめぐる法と政治にかかわる組織という形に便宜的に分けて検討してた。また、これに加え、「国家のあり方を交渉する」(negotiating statehood)という議論のもとで行われたきた視座を加味した。これは、ソマリアの事例では、地方(クラン)レベル、国家(ソマリアの地域政府)レベル、そして国境を越えるレベル(「ディアスポラ」)の諸主体が、交渉、競合、寄せ集め・器用仕事(bricolage)の過程を経て、国家や政府を創り出したり、それを修正したりするかをとらえる視座である。また、ローカルな秩序を主体的に実現しようとする「下から」の取り組みを組み込んだ多様な主体による秩序の実現を試みるハイブリッド・ガバナンス(hybrid governance)といった議論との関連をも包括的に検討する形での成果を上げた。
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