本研究は、冷戦後の国際関係(主体の多様化、イシューの多様化、イシュー間の関連性の増大という特徴が見られる)において「共通の利益(common interest)」の認識はどのように形成されるのか、「共通の利益」の認識に影響を与える要素は何かを明らかにすることを目的としている。 本年度(平成27年度)は、「共通の利益」について、研究代表者及び研究分担者が昨年度各自で行った事例研究を引き続き行った。研究代表者は、国際金融において世界金融危機が「共通の利益」の認識に与えた影響に焦点をあてた分析を行った。国際金融における規制の導入が困難であるのは、各国が国際金融の安定は「共通の利益」と認識しているにもかかわらず、各国の「個別の利益」を追求するため囚人のジレンマ状況に陥るためだという指摘がある。研究代表者は、国際金融において金融機関等の非国家主体の影響力が大きくなったこと、国際金融における不確実性が高まったことが、「共通の利益」に対する各国の認識に相違を生じさせている点を明らかにした。また、研究分担者は、昨年度までおこなってきた国際政治学理論、とりわけ安全保障分野において大きな影響力を持っているリアリストの理論における「共通の利益」の位置づけについての批判的検討に基づき、保護する責任及び移行期正義の事例における「共通の利益」の認識を整理、検討した。研究分担者は、国際社会と国内社会の関連性が増大することにより国際社会における「共通の利益」の認識に相違が生じてきている点を明らかにした。 本研究は、既存研究の多くが「共通の利益」を所与のものとして分析している点について批判的に検討し、「共通の利益」の認識が多様化する要因を事例に即して抽出した。ただし、各事例で析出した要因が事例を超えた要因であるかどうかについては、更に検討を加える必要がある。研究の成果は、この点についての研究を行った上で、発表する。
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