研究課題/領域番号 |
25380191
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
クォン ヨンソク 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80361848)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 国際文化交流 / トランスナショナル / 国際関係 / 歴史学 |
研究概要 |
1.関連研究の分析と各資料館・図書館等での資料収集:日韓のトランスナショナルな交流は1990年代以降、冷戦終焉後の新秩序模索の中、地域主義の観点と「日韓新時代」への希求として活性化したことが明らかになった。韓国の民主化により体制摩擦が克服され未来志向の関係設定に合意が得られたが、この時期はまだ「上からの」交流推進という性格が強い。 2.韓国における日本文化の浸透、文学の「日流」についての調査:大手書店や図書館での調査を通じ長年続いた日本文学人気が完全に定着したことを確認した。村上春樹の新作は韓国で対日感情が厳しかった2013年8月でも売上1位を記録し、推理小説やライトノーベルなどジャンルも多様化し、日本関連書籍の公刊も着実に増えた。韓国の日本文化受容は政治状況にさほど影響されていないという暫定的仮説を得た。 3.地方自治体及び各団体の交流の実態と歴史に対する調査:浦項市は旧日本家屋通りを史跡として造成し観光名所にした。釜山市の対日交流に対する関心は注目に値する。各交流団体は日本歌謡祭、対馬との合同花火大会等多様なイベントを通じ、政治状況に影響されずに交流を推進している。地域新聞も日韓交流に関する記事が多く、首脳会談の必要性を説くなど対日積極姿勢が目立つ。このような中央と地方の温度差について今後注目していく。また1992年に発足した「韓日海峡沿岸市道県知事交流会議」に関する貴重な資料を入手した。この会議は東京-ソウル間関係では見えない日韓関係の側面が垣間見られるので今後さらに調査を進める。 4.専門家との意見交換:日韓共同世論調査を主管する「言論NPO」代表を招きセミナーを開催し、ソウル大学日本研究所の教授等と意見交換を行い「韓日草の根交流と国家親善」等のシンポジウムにも参加した。韓国の公共外交について報告を行い、現代日本学会では安倍外交と岸外交を日韓関係から比較する報告を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度は研究の初年度ということもあり、先行研究・関連文献の収集・分析と現地における資料収集とインタビューなどの調査に重きが置かれた。本基金のおかげで韓国に長期に渡って滞在する機会を得て、ソウルのみならず地方都市へも調査旅行に出かけることができた。国立外交院、国立中央図書館、ソウル大学図書館、国会図書館、釜山市立図書館などで資料収集を行い、韓日協力委員会、韓日親善協会、韓日フォーラム、韓日文化交流会議、韓日文化交流センターなど各種交流団体に対する一次調査もできたので、概ね予定通り進行しているといえる。 だが、2013年度は日韓の政治関係が極度に悪化し、両国の国民感情面でも大変厳しい時期であったために、トランスナショナルな日韓関係について調査することに難点もあった。2014年度は2015年の国交正常化50周年に向けて関係改善の兆しも少なからずみられるので、研究調査に拍車がかかると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は広範なアクターと地域・時期を対象としているために、網羅的になりすぎるなど研究調査において難点が見出された。また、政府間関係ではないために公開資料が乏しく1980年代以降は一次史料が公開されていないなど資料的制約にも直面した。従って、2014年度以降はより調査・分析の対象を絞る必要性を痛感し、具体的には以下のように研究調査を推進していく。 1.地方公共団体の交流は日韓海峡地域、中でも釜山市に焦点を当て調査・分析を行う。釜山の各交流団体、自治体、大学、地域新聞やミニコミなどについての調査は2014年度以降も重点的に行う。 2.釜山と密接な交流のある福岡県、長崎県、山口県など日本側のカウンターパートと、文化交流だけでなく日韓の市民社会の連帯の動きもみられる沖縄についても研究調査を行う。 3.日韓の「トランスナショナル」な関係という意味では、かつての韓国の民主化運動の際の「日韓連帯」、市民運動や市民社会の「日韓連帯」の動きについて分析することが最も重要といえる。2014年度は平和、民主主義、脱原発、環境問題、基地問題、歴史認識問題などに取り組み、国家主義を超えたところで提携の可能性を模索するこれらの活動について重点的に調査を行う。 4.日韓交流を推進し、日韓関係を規定する際に重要な要素となる相互認識面についても注意を払って調査を行う。 5.資料収集・調査が広範に渡るので、研究補助員などの手を借りて行う。また、2013年度は広範な資料収集と現地調査に重きが置かれたためにそれらを分析し論文という形で公表することはできなかった。2014年度には成果の公表を念頭に置き研究調査を推進し、日韓国交正常化50周年の節目の年である2015年に成果発表を複数行えるように準備する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では九州地方への出張が予定されていたが、韓国での出張が長期に渡ったために2013年度に執行することができなかった。また、韓国で必要となった消耗品などについては急を要していたために自己調達した。複写費についても韓国現地での複写について手続きなどが煩雑な点もあり、自己収入で複写を行った。 2013年度に実施できなかった九州・沖縄地域への出張調査を行う。 調査地(韓国)で必要な物品・消耗品について、事前に手続きを行う。
|