本研究は、国連行政におけるアカウンタビリティの概念の歴史的考察を検討した先行研究においては未解決であった、業績志向型管理の導入が行政統制の実体的側面に与えうる影響の考察とその問題点を明らかにし、かつ同時に、研究対象を国連システムの専門機関ユネスコに拡大することにより、結論の一般的適用性を検証することを目的としていた。 本研究開始前に行われた先行研究では、国連が到達していたアカウンタビリティの概念には、業績志向型アカウンタビリティの概念(performance-based accountability)が該当すると結論づけられていた。そのため、①当該サブ概念が果たして国連システムの専門機関であるユネスコにも該当するか、②また、業績志向型管理の導入が、旧来の伝統的な監査を現代的な業務監査へと変容させる上での障害は何かという問題を検証することが本研究の焦点だと考えられていた。 しかし、①に関しては、2015年に持続可能な開発目標(SDG)が国連総会で採択されたことにより、先進国も包含したグローバルなガバナンスにおける目標の設定に関わる合意の達成が可能となった。J.D.Stewartの"ladder of accountability"というアカウンタビリティのサブ概念に関するモデルを参照すれば、SDGの設定により、国連システム全体がポリシー・アカウンタビリティ(policy accountability)の概念へと移行していったと考えられた。②のユネスコにおける業務監査への移行を含む行財政改革の推進に関しては、2011年、パレスチナの国家としての加盟をユネスコ総会が承認したことにより、アメリカが分担金不払いを開始し深刻な財政危機を引き起こした。それが予算大幅削減の中での一層の効率化を求める加盟国からの強い要求につながり、行政管理・統制強化を求め行財政改革が推進されたと考えられた。
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