研究課題/領域番号 |
25380195
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 覚 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (60359867)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | テロ対策 / ムスリム / サウディアラビア / インドネシア / 脅威 |
研究概要 |
初年度は、国内から発生する脅威に対抗するためのサウディアラビア政府による戦略の特徴に関して研究した。このために全方位均衡論の研究を精緻化する作業を進め、サウディアラビア政府によるテロ対策の特徴を浮き彫りにするための研究作業とした。成果の一部は、国内外のシンポジウムやセミナーで研究発表したが、研究発表の機会に関しては、サウディアラビア人の識者や、事例研究(定性的研究)を専門とする研究者との意見交換を重視して選択した。 初年度は、全方位均衡論の精緻化を進める作業を通じて、サウディアラビア政府によるテロ対策の特徴を浮き彫りにする作業を実施した。全方位均衡論は、権威主義諸国の安全保障行動を説明するために適切な理論として知られる。本理論を援用することにより、サウディアラビアによるテロ対策に関して、サウディアラビアの生存戦略との関連から理解することが可能となる。 初年度の作業では、サウディアラビア政府の行動における特徴として、国内の政治社会的な亀裂に由来する脅威への警戒や、外部の勢力によるテロ集団への支援への強い警戒を確認することができた。また、サウディアラビア政府によるテロの脅威に対する対応では先制行動が特徴であった。さらに武力を行使するハードな対応と、政策表明や外交によるソフトな対応の使い分けを指摘できた。加えてサウディアラビア政府によるテロ対策の制度化として、初の包括的テロ対策法(テロ犯罪対策法)に関して検討した。初年度の分析は、主にサウディアラビアによるシリア危機への対応に関する事例分析を通じて実施した。 インドネシアにおけるテロ対策に関しては、専門家と意見交換を進めたり、資料収集を進めたりすることができた。また未公表の段階ではあるが、サウディアラビアとインドネシアのテロ対策を比較する一定の視座を国際安全保障学に基づいて準備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗は、おおむね予定通りのペースで進んでいる。初年度に予定していた課題として、サウディアラビア政府によるテロ対策に関して、最新資料の収集を進めると共に、全方位均衡論に基づく理論化の作業を進めることができた。研究作業の中では、サウディアラビア政府によるテロ対策における国内外での広報と公約、ジハードに関する解釈や政策、政府によるテロ対策のための法執行やハードなテロ対策を整理した上で、権威主義体制という政治体制に由来する要素を分析した。 インドネシアのテロ対策に関しては、資料調査や専門家との意見交換は予定通り進めている。ただし、初年度には、サウディアラビアの安全保障戦略に関して国際的セミナーで研究発表を続けて実施する機会を得たことから、インドネシアでの現地調査を実施する予定を延期する裁量的判断を下すこととした。とはいえ、サウディアラビアとインドネシア両国のテロ事件の経過やテロリスト集団の特徴、テロ対策の成功の程度に関しては概要を把握する作業を進めているので、二年目以降の研究作業で遅れは出ないと考えている。 また初年度は、年度末に論文の原稿を学会誌に投稿したが、この出版が年度明けの夏が予定となっているため、成果の公開はやや遅れている外見となっている。とはいえ、研究発表はすべて国際的なシンポジウムやセミナーで公開しており、論考の一部は国内で公開した。研究の進捗速度は、研究環境に対する適切な対応の結果であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目までの予定を完遂するため、申請時の予定を踏襲しつつ進めることとする。インドネシアでのテロ対策として、テロリストの脱過激化を目指す「社会復帰プログラム」、元テロリストやイスラーム学者などによるメディアでの広報、テロ対策に有効なイスラーム的概念、国民への啓発などに関して成果を中間総括する。 またインドネシアにおけるテロ対策は、サウディアラビアの場合と比較すると、類似の経過を経ていたのか、また政策の相違があるのか、検討する。インドネシアとサウディアラビアによるテロ対策の経過における共通点と相違点に関しては、政治体制によって説明できるのか検討する。 また両国において脱過激化によるテロ対策において使用されたイスラーム的言説は、宗派やリーダーのタイプによって特徴付けられていると言えるのか、使用頻度、使用される場面や状況、使用された概念などを検討する。 サウディアラビアとインドネシアで資料収集と意見交換を継続するが、さらにマレーシアやシンガポールなどの東南アジア諸国でイスラームにおける安全保障観に関して意見交換を実施する。東南アジア諸国の国際安全保障専門家は、隣国であるインドネシアのテロ対策に関して高い見識を有しており、有意義な意見交換を期待できる。
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