研究課題/領域番号 |
25380197
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
簑原 俊洋 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40314455)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日米関係 / アメリカ外交 / 日本外交 / 戦間期 / 米大統領 / 国務省 |
研究実績の概要 |
前年度はフーバー大統領とスティムソン国務長官との確執が対日政策に及ぼした影響をキャッスル国務次官をキーパーソンに考察したが、今年度はローズヴェルト政権に考察に中心をシフトさせ、同大統領ととハル国務長官との人間関係を掘り下げて検証した。その結果、貿易政策に対する違い、さらには他を圧倒する強大な大統領の影響力を認識することができた。本研究に直接関わるのが両者の対日認識である。ハルには強烈な反日感情はなく、むしろその関心は自由貿易の促進、さらには国内政治(とりわけ連邦議員との調整役)に向けられていたが、他方のローズヴェルトは全く違っていた。 すなわち、権力に対する強い執着心、また外交に対する強い関心、そしてそれに劣らないぐらいの強烈な反日感情が見えてきた。こうした感情は彼がウィルソン政権で海軍副長官を務めた時からすでにあったことも研究調査から明らかとなった。すなわち、彼は早い段階から日本の警戒しており、やがて日米は対立すると考えていたがゆえに米海軍の太平洋上でのプレゼンスを強化しようとした。また、このような考えを有していたために、1933年に大統領へ就任した直後から有事の際は日本人移民及び日系人を隔離する政策を考えていたことも判明した。こうした諸事実は、前共和党政権と打って変わって、ローズヴェルト新大統領の下では日米関係の維持は多くの困難を伴うのを暗示するものである。つまり、その前提からしてローズヴェルトの就任は日米関係の管理を難しくするものであり、逆説的であるが、仮に共和と候補のウィルキーが勝利していたならその後の日米関係は果たしてどのような展開を見せていたのかという歴史の「イフ」を改めて考えさせられる。もっとも、そうした思いを抱きながら政権初期のローズヴェルトの課題はもっぱら国内経済の立て直しにあり、それゆえニューディール政策に没頭した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に設定したターゲットのほとんどをクリアしつつある。すなわち、入手した膨大な一次史料を読み進めており、その中から1930年代におけるアメリカの対日政策について新たな像を掴みつつある。くわえて、課題としていた政党史についてもそれなりに理解を深め、くわえて当時の孤立主義が強かった国内世論(アメリカファースト運動など)に関する理解も格段に増した。敢えて課題を述べるとするなら、それは1930年代前半、大恐慌に直面した後のフーバー大統領の経済政策にあるが、これについては先行研究・基本文献はすでに収集しているため、あとは読み込むだけとなる。 昨年度の研究おいて当初予想していなかった収穫となったのが、国務省に関する知識の習得である。同省の幹部(とりわけ極東部内)を現実主義を基礎とする知日派と理想主義を貫く親中派と分け、彼らの間で展開されていた綱引きを検証することができた。さらに、日本の大陸への積極的行動がいかにして知日派の影響力を漸減させ、他方、親中派の存在感を増すことに繋がったのかをある程度解明することができた。 以上から、計画はおおねむね順調に進捗しており、研究成果の発表も内外で行うことによって次年度に活かすことのできる貴重なフィードバックも得た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度となるため、もっぱら執筆作業に専念し、活字という形をもって成果を積極的にアウトプットしていきたい。幸い、出版社も無事に確保できたため、書き上げるモチベーションもかなり高く、テンポよく作業を進めていきたい。なお、現段階ではアメリカの対日関係に関連する部分を一冊、純粋に大統領という視点から考察した部分を一冊、すなわち二冊に分けて上梓する予定にしている。 なお、研究計画の微調整だが、FDRに関する部分は彼の政権が異様に長く、かつ文献が大量にあるため、取り敢えずのウェイトはフーバーの方に置きたいと考えている。そのためには、前クーリッジ政権(とりわけ二期目)を検証する必要があるため、これが新たな課題となる。本研究の軸足はアメリカ側にあり、これによって従来の邦語研究では捉え切れなかった斬新な日米関係像を示すことができるのではと考える。 前年度からの繰越額だが、前回報告したようにパソコンの調子が非常に悪いため、今年度に買い換える予定である。また、海外での報告のオファーがたくさん届いているため、アウトプットして1930年代のアメリカの対日政策について積極的に好評していきたい。ただ、年度の後半は上述したとおり、もっぱら執筆作業に充てたいと考えている。 最後に今後の計画だが、一年半以内に少なくとも一冊目の原稿を完成させ、遅くても2019年には刊行できたらというスケジュールを練っている。なお、この間に研究成果の一部を英訳し、海外において成果を活字にて公表したいとも思っており、そのために秋頃から海外の学会において積極的に発信する段取りを整えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用額に余りが出た理由は最終年度に成果公表が多くなると見込まれ、それゆえ海外渡航の資金を確保したかったからである。実際、次年度は今までの中でも最も多く研究報告を行う予定である。くわえて、パソコンが調子悪く、買い換えの必要性が生じている。その分の予算の確保も念頭にあった。
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次年度使用額の使用計画 |
上述したとおり、海外渡航費、およびパソコンの調達に使用する。
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