フランス植民地帝国主義の崩壊をもたらしたアルジェリア戦争(1954-1962年)を事例として、民族解放戦線FLNとフランス共産党を対象に非国家主体が脱植民地化に果たした役割を研究してきた。このうちFLNについてはアルジェリアの国家文書館所蔵のFLN文書の閲読し、彼らの米国での活動や社会主義諸国との関係について調査した。FLNが冷戦・反共のレトリックを利用しつつ、自らのアルジェリア独立の大義に米国の支持をとりつけようとしていたことをつきとめ、その史料紹介を公刊した。他方、フランス共産党についてはこれまで、フランスの国家文書館所蔵のトレーズ文書、セーヌ・サン・ドニ県文書館所蔵の共産党関係文書、外交文書館所蔵史料等を閲読し、党の政策・活動実態、ソ連その他の社会主義諸国の共産党との関係の解明に努めてきた。 また冷戦と脱植民地化の交錯について、論文「アルジェリア戦争と英仏関係」を学会誌『国際政治』第173号に公表した。さらに2015年11月には、「植民主義と脱植民主義:世界史的視野から」をテーマとした第15回日韓歴史家会議(ソウル)に日本側討論者として参加し、アルジェリア戦争研究の立場から討議を行った。この結果は第15回日韓・韓日歴史家会議報告書としてまとめられた。 さらにアルジェリアの独立後に生じた、現地在住フランス人の本国への引揚げに対して、フランスではどのような受け入れ政策が展開されてきたか、引揚者たちの要求が引揚に伴う損失財産の補償からアイデンティティ・記憶の承認へと変化してきたことを展望した。これは共同研究の一部をなす論文「植民地からの引揚者をめぐる政治」(『「再国民化」に揺らぐヨーロッパ』法律文化社所収)として出版された。
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