本研究の最終年度となった平成28年度は、NGOや投資機関といった私的なアクターが国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による公的権威の回復をどのように評価しているのかについて聞き取り調査を実施するとともに、研究期間全体を通して得られたデータを基に3本の論文を執筆した。聞き取り調査は、アムネスティ・インタナショナル(AI)の「企業と人権」分野の担当者、国連企業・人権指導原則報告枠組みを提案したシフト(Shift)の代表、および企業と人権に関するベンチマークを設計・実施した投資会社のアヴィヴァ・インヴェスターズ(Aviva Investors)、企業人権資源センター(BHRRC)および人権企業研究所(IHRB)の担当者に対して実施した。当該聞き取り調査の結果、OHCHRが保有する公的機関としての権威は、市場メカニズムを利用する多種多様な私的な行為主体による実験的なイニシアチブを支援・調整する点にあるという新たな知見を得ることができた。また政府間組織(IGO)がこのような役割を演じるようになった理由としては、伝統的な規制の枠組みである国際レジームの形成を可能にする国際的な合意が欠如していること、新しいガバナンス手法についての知見が欠如していること、そしてIGOの側に政策革新を自ら提案するのに必要な組織的な資源が不足していることなどが明らかにされた。論文に関しては、公的な国際組織の権威回復という共通のテーマで、水資源管理に関する国連グローバル・コンパクトの役割、「企業と人権」分野における国連人権理事会およびジョン・ラギー(John Ruggie)国連事務総長特別代表の役割、そして「企業と人権」分野におけるOHCHRの役割についてそれぞれ執筆し、しかるべき出版媒体において刊行することができた。
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