本研究において平成27年度には、第一に、米国の国家の成り立ちを欧州統合との連動のなかで分析した。人・物の移動と国家の変容について検討するには、米国の国家基盤について踏まえておくことが必要になるが、拙稿「The United States of America と The United States of Europe-その連邦制への道のりー」(『国際関係研究』第36巻第1号[https://www.ir.nihon-u.ac.jp/pdf/publication/02_36-1_01.pdf])は、米国の州権を①英領植民地時代の遺産という観点からとらえ、②米国における連邦政府の優位確立と国家統合の過程を、欧州統合の歴史的背景と今後の欧州統合の展望のなかで検討した。さらに③大西洋両岸での統治形態をめぐる連動と21世紀における主権国家の変容についても論じた。 より具体的には、米国の国名の成立過程を追い、ついで米国の国名の単数扱い・複数扱いの問題を分析した。そのなかで、米国における連邦政府の優位確立の問題を、米国の国名の単数扱いの定着との関連でとらえ、いつ、どの程度の統合がなされたのか検討した。さらに、欧州における統合追求の歴史を振り返り、the United States of Americaが欧州の人々にとって一つの理想像になってきたことに注目した。米国の国家統合の問題は、州と国家との関係であり、欧州統合は欧州諸国の国家間の統合である。両者は異次元の問題とみなすこともできるが、21世紀における主権国家の変容という観点からすれば、共通するものをもっている。 平成27年度には、第二に、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスなどからの(親に伴われない)子供の不法入国問題についても引き続き追究し、資料もかなり収集している。しかし、上記論文を優先したため、この問題に関する論考はまだ執筆していない。
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