ニュージーランド(ウェリントン)への聞き取り調査を実施し、ミナミマグロ資源保護に関する調査の一応の完結を見た。マグロ資源管理のための国際協調の前提となる資源量の推定プロセスを、ミナミマグロの主要漁獲国である日本・オーストラリア・ニュージーランドの3か国での聞き取り調査および文献調査により比較し、資源量推定の「科学」と漁獲量割り当て設定の「政治」との間の関係を考察した。 資源量の回復をめぐる3か国の間の認識の差が、日本単独の漁獲割り当て外での「調査漁獲」へとつながり、これが2000年代初頭国際裁判へとつながった。さらにその後、日本漁船による漁獲割り当て超過が問題となり、日本がペナルティーを受け入れることとなった。 「科学」という万国共通のはずであるプロセスで資源評価を行い、そこから総漁獲量を決め、それを各国へ政治プロセスにて割り当てるという、本来国際漁業協定が意図したはずの科学と政治の分離が、実際に確保されているのかという問いは、こうした国際協定がきちんと機能できるのかという問題と不可分である。 現実には、狭い政策領域における科学者の独立を担保することは困難で、国別の産学官の近しい関係がいわゆる政策の「ムラ」社会を程度の差こそあれ形成しているといえる。ミナミマグロ委員会では、非漁獲国の科学者を資源量評価プロセスに参加させるなど、「ムラ」の対立を調停する試みもなされてきたが、十分とは言えず、調査方法・資源量推定のためのモデル構築などの本来は「科学」のみに属すべき部分から「政治」を完全に排除するには至っていない。 本研究で得られたこの知見は、今後ミナミマグロ委員会のみならず、資源枯渇がより深刻な大西洋クロマグロ、近年の枯渇が著しい太平洋クロマグロ、今後の資源量低下の危惧されるキハダマグロ、メバチマグロなどの管理手法を可能な限り「非政治化」するための国際協力プロセスの改革の方向を示唆する。
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