研究課題/領域番号 |
25380228
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
下村 研一 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (90252527)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 市場経済 / 完全競争 / 複数均衡 / パレート最適 / 財の可分性 / 純粋交換経済 / コア |
研究実績の概要 |
純粋交換経済のモデルと完全競争均衡の計算プログラムを改訂しつつ,離散型経済モデルと連続型経済モデルの競争均衡とパレート最適配分の比較検討を行った.具体的な内容としては,同問題に取り組んでいる共同研究者とは適宜意見交換を行い,離散型と連続型の相違で理論的に説明できないものについて,理論の見直しに加え手計算・エクセルによる再確認を行った.以上の過程を経て正しく修正が行われたことを確認したモデルと計算プログラムを用いて分析を行い,改めて理論分析と計算分析の含意について議論した.その結果,離散型経済モデルでは消費者の効用関数の局所非飽和性が満足されることがないことにより,複数存在する完全競争均衡の中にパレート最適配分でないものが非限定的な状況で存在することが判明した.さらに共同研究者との議論はコアの収束の計算プログラムによる検証へと進んだ.純粋交換経済においていかなる提携からもパレート改善されない配分の集合はコアと呼ばれ,いかなる提携からも強く改善されない配分の集合は弱コアと呼ばれ,連続型経済モデルでこれらの集合は消費者の数が無限に増えていくと完全競争均衡の集合に収束することが理論的に証明されている.この現象が離散型経済モデルではどのように観察されるかが問題提起された.つまり,コアと弱コアが収束するか否か,収束するとしたらその極限は競争均衡の集合か,そして収束の傾向はどのようなものかである.2種類の効用関数を用いて計算プログラムによる検証を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連続型経済モデルで効用関数の局所飽和性に基づき証明された完全競争均衡がパレート最適であるという命題は「厚生経済学の第一基本定理」として市場経済の本質と位置づけられている.しかし,本研究課題における計算結果から離散型経済モデルでは完全競争均衡にパレート最適ではない配分が含まれ,さらに弱コアが競争均衡の集合に収束する傾向も観察されることから,財が可分性を満たさない経済においては交換によってもパレート最適が達成されない可能性が存在してしまうことが判明した.また存在のしやすさは,消費者が持つ効用関数の関数形に依存することも判明した.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究において,パレート最適である完全競争均衡とパレート最適でない完全競争均衡は「消費者が支出を最小化しているか」という点で区別され,コアの収束もこの基準が満たされるかどうかで判定されている.今後はこの2種類の完全競争均衡が,効用関数の与え方にどのように依存して存在するのかを特徴づけたい.また可能ならば被験者を用いた実験を行い,動学的な価格調整過程の理論予測と比較する.具体的には,前年までに改訂を重ねて構築した理論モデルとの整合性を確認する.執筆中の論文は外部の研究会や学会で積極的に発表し,意見交換を行なう.最終年度はこのような過程により,研究の完成度を高めることを目指したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
理論モデルと計算プログラムによりコンピューターから得られた結果が当初ほぼ予想通りであったため,被験者を用いた実験を行うための研究費使用を考えていた.ところが,手計算とエクセルにより再確認したところ,パレート最適でない予想外の均衡が見つかったため,その理論的基礎付けを行うことで実験を延期せざるを得なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
パレート最適でない予想外の均衡も含めて理論的に存在する完全競争均衡の計算は終了したので,が見つかったため,今年度は被験者を用いた実験を行う計画である.
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