純粋交換経済のモデルと完全競争均衡の計算プログラムの改訂作業を並行して行い,同モデルの競争均衡とパレート最適配分を離散型経済モデルと連続型経済モデルによる理論予測と数値実験による比較研究を行った.同問題に取り組んでいる国内外の研究者と定期的に意見交換を行い,理論予測の精緻化とコンピュータによるシミュレーションを通じて,理論分析と計算分析の結果をつき合わせた.まず,ゲールが考案した商品2種類消費者2タイプの純粋交換経済の連続型モデルを用い,商品の消費者間への初期配分に応じて競争均衡が動学的な価格調整過程により安定になる場合と不安定になる場合を特徴づけた.次に同モデルを離散型経済モデルに書き換えたバージョンで,同じ価格調整課程の安定性と不安性を確認し,学生を被験者としたダブルオークション実験を行った.実験の途中で安定性,不安性のそれぞれをもたらす初期配分にスイッチしたが,理論予測通りの価格変動を示すデータよりも理論予測ほど明確な反応がない価格変動を示すデータの方が多く得られた.このことから,市場の超過需要の値は理論予測ほど速く顕著に価格変動に反映はしないことがわかった.そして,商品3種類消費者3タイプの純粋交換経済の連続型モデルを用い,消費者の効用関数のパラメターに応じて競争均衡が何個存在するのか,動学的な価格調整過程によりどの均衡が安定になりどの均衡が不安定になるのかを特徴づけた.特にパラメターの値によっては,局所的に安定な均衡,大域的に不安定な均衡,そして鞍点の3種類の均衡がすべて存在することが判明した.
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