本年度はイノベーションに曖昧さのある経済成長モデルの分析と論文の作成を行った。このモデルでは、新規参入企業が財の品質を向上させるイノベーションの結果、経済成長が起こる。イノベーションの成功確率を一つの数字に確定できないあいまいな状況を考え、それぞれの主体はイノベーションの成功確率がある区間に入ると考えていると仮定する。各主体は自分の期待効用のイノベーションに関する確率での最小値を最大化するように行動する。新規参入企業がイノベーションを行う前はイノベーションの確率が最小であると考える。イノベーションに成功した後で企業は生産性を向上させるための投資を行うが、この時の最悪の状況は同じカテゴリーの財でイノベーションが最大の確率で起きることである。したがって、イノベーションの前と後では企業はことなる成功確率をもつことになる。よって、イノベーションの曖昧さが増えると、イノベーションが減ることで経済成長が悪化し、生産性向上への投資が減ることで生産性が低下する。これは、イノベーションの成功確率が単一の筋で表現される通常のモデルの帰結とは異なる。 以上に加え、本年度はこのモデルでの厚生分析を考えた。このモデルでは生産性向上のための投資をお金で払う、労働で払う、最終財で払うかなど設定に複数の候補がある。投資を労働か最終財で払う場合はモデルの均衡条件を書くことが難しいので、本研究では投資をお金で払うケースを考えている。この場合でも、社会厚生関数を導出することは困難であることが明らかになった。これは、投資のためにすてたお金の機会費用を具体的に計算することが難しいからである。
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