企業にたいして、法律や社会規範の順守、つまりコンプライアンスが求められるようになった。しかしながら、経済学の理論においては、株主のために利潤を最大化することが企業の目的であるという考え方が支配的であり、コンプライアンスをその中心にすえているわけではない。社会の要請に対応して、新たな経済理論を構築する必要がある。本研究は、コンプライアンスを、法律ばかりでなく社会規範の順守として広くとらえ、ルールを守る側と守らせる側がそれぞれコンプライアンスを強化していくメカニズムを分析する。人々は社会規範から逸脱することで、罪悪感などの負の感情を抱く。こうした負の感情の発現プロセスについて、経済主体による社会規範の内在化から解明していく。さらに、社会規範の順守を継続することで、名声あるいは社会的イメージを形成していくプロセスを動学モデルによって考察する。このようにして、社会規範を守るためのインセンティブのミクロ的基礎づけを行っていく。コンプライアンスを、関係する法律を守るだけでなく、社会規範の順守まで広くとらえて、経済主体がコンプライアンスを強化していくメカニズムを分析する。まず、法律だけでなく社会規範がなぜ必要なのかを経済学的に明らかにし、次に、社会規範に沿って行動するインセンティブを検討する。最後に、ルールを守らせるというエンフォースメントとして、第三者による利他的懲罰を考察する。組織内部にいる経済主体の社会的選好の創発とその進化について考察した。本研究においては、利他的行動が持続可能になるための制度的条件を理論的に明示化した。社会規範と経済主体の選好との相互関係を考察して、経済理論の発展を試みた。
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