経済成長の要因は、労働、物的資本(生産設備)、それ以外の技術進歩などの要因(全要素生産性)に分解することができる。これら3つの要因の内、特に全要素生産性は、長期の経済成長において大きな役割を果たすことが指摘されてきた。こうした全要素生産性の重要性のため、その値の計測にも関心が集まっている。全要素生産性の推定方法は複数のものが存在する。ただし推定であるため、常に正確な値を計測できるとは限らない。特に開発途上国の場合には、推定の基になるデータが入手困難である。あるいは、データが不正確であるというケースが少なくない。例えば、精度の高い物的資本データは入手が困難であることが多い。また、推定方法が不得手とする推定環境なども存在する。こうした開発途上国特有の問題の下で、全要素生産性はどの程度正確に推定することができるのだろうか。本研究では、現在利用されている複数の全要素生産性の推定方法について、どの方法がより正確にTFPを推定することができるのか、どの程度正確に真の値を推定できるのかという研究課題に焦点を当てた。本研究は計算機上の実験、いわゆるモンテカルロ実験を行うことにより、これらの点を分析した。分析の結果、計量経済学的な方法に基づく推定方法は、推定結果のばらつきが大きいことが明らかになった。これに対して、労働所得データに基づいて、(計量経済学を用いずに)全要素生産性を推定する方法を用いた場合には、推定結果のばらつきが少なく、比較的正確にかつ安定的に全要素生産性を推定できるという結果を得た。
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